サバ缶コロコロすっとんとん
ログキャビンも屋根裏の秘密基地も、地下室も、ツリーハウスも、どれもステキな男のロマンだと賛同する。
だが、ログキャビンに地下室をつけていないし、謎のプライベートシアター・サラウンドオーディオシステム付ということはない。
あれはあるはずのない洞穴の入口。
ドキュメンタリー風冒険バラエティが喜んで突入してゆきそうな風情だ。
カメラマンと照明の後に、【未踏の洞窟】へ隊長が慎重に足を踏み入れる。
決して開けてはいけませんよ。
って言われたら与兵も浦島太郎も青髭奥さんも
どうしても開けてしまうのだ。
あの穴はヤバい。
決して入ってはいけないやつだ。わたしは素人なので断固拒否する。
芸人じゃないので、フリだとはいわせない。
わたしはたくさん読み聞かせをしてもらった子どもなので
どんなに振られても、のらないって学んでいる。
トリオ漫才のネタじゃない。生命の危機を感じる時にやらないよ。
点検口から覗くときは腹ばいになり、決してバランス崩して転がり込むことのないように
慎重に様子をうかがっている。
泥棒は帰ってこない。気配もない。
だけど、洞穴に冷凍焼きおにぎりや玉ねぎやサバ缶、冷凍みかん、餅。
投入する都度、正確に呼びあげるので
どこかにバーコードリーダーがついているようだ。
物流が滞る恐れのある地震の後なのに、貴重な食料をつぎつぎに放りこんだのは愚かしい振舞だが
そのつど少年合唱団のような透明感のある高音の美しいコーラスが
「サバ缶コロコロすっとんとん」とか響くんだぞ?
投げるだろ?
全力で投げるしかないだろう?
子供の頃、読み聞かせのとき
「じいさん、ダメじゃん。午後も仕事するのに全弾投入したらおなかすいて倒れちゃうのに」
みなでつっこんだものだが、今はじいさんに同意してる。
これ以上投げると補給に困るという当たり前に気づいたとき
ようやく点検口に収納バスケットと梅干しやミソの容器を納めた。
そして念のため点検口の蓋はロックした。
もし連中が帰ってきても出口はない。
そのうえ、わたしはいまから集落に降りる。
続きは明日の朝6時です。