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床下の迷宮  作者: へますぽん


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36/92

伴侶ちゃんがいるかもしれない、向こうへ

街道を快調に歩をすすめる。

もうね。先を歩むものどもを片っ端からぶち抜く。通勤するような勢いで。

荷物を担いでこの速さは画期的。

空は晴れ渡っていて気持ちいいし、体表を滑ってゆく相棒由来の風も心地よい。

見通しがいいのだ。

高層ビルの上。通りの向こうにしか空は見えなかった。

あるいは木々の上、山の彼方。

遠くの空をちいさく飛ぶ鳥が動くさまは岩手の名菓「明がらす」のようだ。

干菓子のうえに黒ごまがパラパラまいてある意匠で、都内で見ても意味がわからなかった。

遮るもののない空、遠く北上川の向こうを飛ぶカラスっぽい点が群れて動くのを見たとき

その見立てに膝を打った。

早朝、白く明ける空を黒いごま粒のようなカラスが飛んでいる寥郭たる様子を

小さな白い菓子の上に切り出している。

とても感動したんだ。そんな空を意識しなかったから。

それ以来、夕方(・・)遠くに鳥が飛んでいないかなって見るようになった。

ここでは常時、明けがらす。全方向、空が見える。

開放感がすごい。


っていうわけで、常に空から相棒は狙われている。観光地のトンビなどは後ろから襲ってくるので、絶対に背を取らせないと気を張っている。

いや、わたしが気負ったところでプロのトンビに適うものでもないけど。

移動はするけど、旅行は詳しくない。不慣れなのでちゃんと豪天号を庇えているだろうか。


「実はわたし、旅行ってあまりしないほうなのよ。

遠くまで出かけても、食事をする場所を探して宿を探して不足を買い足すだけでしょう?

出先では毎日、どこにいっても、寝床と食事のことを考えてばかり。

家なら、寝る場所も食べ物のストックがあるのよ?家の周りでも楽しく過ごせるし。


…あ。でも、ドライブには行くから、それは旅行?

だけど、だいたい知っているところに行くの。いつもの店でガソリンを補充していつもの店で食事する。

知っている店で土産を買うし。

こうして全く知らないところに行くのは、心配になるわね」


「でも、瑞希は食べ物の心配も要らないし、寝る場所も用意する。大丈夫、心配は要らない」

「だけど、人攫いとかクマとか山姥とかでるんじゃない?」


「そこは全力の逃げ足で」

主様ありがとう。

いや、ご加護がなければ、巣穴で喰っちゃ寝できていたのでは?


今は全く知らないところへ全力で移動している。

豪天号が以前探索したところを通り抜けて、その向こうへ。

伴侶ちゃんがいるかもしれない、ずっと向こうへ。



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