旅装
タンカラーの頭巾。濃い鈍色の下衣。薄い灰褐色の外套。
じつに見事なアースカラーで保護色だ。どこの幼獣だ。
わたしのシルエットは遠目に見るとアミガサタケを思わせるフォルムだが、ヤツの足のほうがミルキーホワイトでオシャレ。
そう、わたしはとても地味な色彩の旅装だ。
外套のすそを翻し、すたこらと街道を進む。
いかにもバックパッカーらしい背嚢の大きさがやや奇異かもだが、もっと奇抜なモノ達が移動していたという相棒の証言もあり
先行する旅人を追い抜いてもとりたててリアクションもないからそう信じて街に着く。
大きな背嚢ごと纏う外套が特異なシルエットにつながっているだけなんだけど
大きく広がる裾が風をはらんで翻るとちょっと楽しい。
衛門を抜けると町中の狭い路地ではデカい背嚢が人に当たって邪魔になる。
マルシェの通路に立ち止まるだけで人通りを塞いでしまう。
目についた櫛を2枚買う。目の詰んだ木製の櫛。
そのあとは、そそくさと塩と砂糖と食べ物をすこし買って衛門に向かう。
「さて、ここからどっちに向かう?」
懐の相棒に声を掛ける。
「そうだな。このまま街道をまっすぐ進む」
どっちへ?どこに向かって?
「ってそれを確かめるために地図がほしかったんだ!」
ほら。買い忘れてる。
「豪天号もそろって忘れていたね」
やはり慣れない場所での買い物って買い漏らしがでる。
「いや?しおとさとうとけいこうしょく、ちずだろ?買ったじゃないか」
ええええ?
…まさかのおやじギャグかー。まいったな。
否、皆までいうな。
言わせないっ。
っていうか、そもそもチンチラに地図の概念はないよね。求めたわたしが悪いのだ。
二重に脱力したところに荷物が邪魔だと通る人にさらにぶっとばされてフラフラと町の中へと戻った。
地図は装備や携行品の店にあり、けっこう良い値段のする品だ。
町を中心に3種類購入する。
なんだろう。古地図っていうよりイラストくらいの精度にしか見えない。
それでも手がかりがないよりまし。一番大縮尺のものを胸の内ポケットにしまう。
町を出て、牧草地で通りかかった人に袋に一杯分の草をわけてほしいと頼む。
彼の牧草地を指でさされて、いいだけ詰めて行け。と許しを得る。
謝礼に買ったばかりの煎餅のような固い焼き菓子をすこし差しだす。
前歯がちょっと欠けているのが判るくらい大きく笑って
「おう。ごちそうさん。これでまたちょっと歯がかけるかもなぁ。日陰で少し休んでいけ」
牧草地の生け垣を指した。
わたし達は背後から鳥に襲われない場所に座り、甘みのあまりないやたら固い焼き菓子と摘んだばかりの草とうすい塩水で休憩をする。
相棒に地図を見せて、ここが現在位置。ここには出発した迷宮が記入されている。と示した。
「だから、この道をこっちに進んでいる。いままで豪天号が探索した場所の話を教えて?それを書き足したい」




