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床下の迷宮  作者: へますぽん


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33/92

門出

「瑞希、発進!」

スリングで腹に格納された轟天号が号令し、衣擦れの音、枝を踏み割る音、砂利の音と共にわたし達は出発する。

ゴゴゴゴゴッ!!ガショーン、キュィィィィーン!!的な音が欲しい。


日の出の時間は早く、巣穴の外の草はまだ朝露に濡れている。

門出を見送ってくれているが、外は危険が多いので早々に引き取ってもらう。

見送りの側が空から強襲されて連れ去られるのを見ることになったら、縁起でもないだろう?

ちゅるる、ぴぴちゅ、ぴ。

などと軽快に囀っているが、アレが肉食ではないと誰が知っているのだ?

わたしは生き物をチンチラ達以外知らない(オオカミと犬の判別さえできなかった)し、チンチラは鳥の種別をしない。

攫われたものだけが肉食鳥を知っているが、生還しないから知識の共有がされていない。


「でも、おれを攫った鳥とは違うようだ」

「だけど、警戒してゆきましょうね」

わたしも素性を隠すために髪を頭巾で覆い、日差しを避ける薄い外套をリュックごと纏っている。

おかげで背はリュックの間に汗をかいている。

なお、腹側はホカホカのチンチラで蒸れている。


脱水症状で命の危険に曝される前に町で塩を買わなくては。

胴回りが異様にふくらんだ、てるてる坊主のような旅装でも街道でとがめるものはなく

周りの目を引かない程度に早足でスタスタと進む。

だいたい都内でラッシュ時に駅コンコースを進む勤め人くらいの速さ。

あれ、スゴい早足だよね。

世界でも有数の移動速度って本当だろうか?

都内って階段が多くて乗り換え時の移動距離も長く

一駅分くらいは乗り換えの為に歩いてるよぜったい。と上京した従姉妹は叫んだ。

首都圏では通勤するだけでかなりの運動量があるね。

地下深くから地表数階分まで歩いて登ってまた降りる。


あれを思うと舗装されていないけど、澄み渡る美しい空の下土埃を吸いながら、カカトを蹴られることなく歩むのどかさの素晴らしいことよ。

…。土埃で鼻の穴がヤバくなりそうなので、口元を布で覆うといよいよ蒸れるが湿度の低さで堪える。

爽やかだ。


ズカズカと大股で歩いて行けば、先日の街が見えて来る。

今日は羊にちょっかいを出さない。余計なことに気を回すとまた買い忘れが出そうだからね。

「塩と砂糖。携行食も欲しい。地図があると良いなぁ」

忘れないように唱える。

「しおとさとうとけいこうしょくとちずだな」

相棒が復唱した。頼もしい。

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