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床下の迷宮  作者: へますぽん


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32/92

お見送り

おまえ。

あんなにせがんだじゃないか。



いざ出発するにあたって、どこに向かうか未定ってなんだよ。それ?


しっかりしてると思っていた轟天号のノープランっぷりに目の前が真っ白くなる。

ライラックとシナモンが足元にぶら下がるようにまとわりつく。

「違う。違うのっ!」

「兄貴、嬉しすぎて選べなくなっただけなのっ!全部一番に行きたくて焦ってるだけでっ!」


くそダサい優柔不断っぷりを満座の席(見送り)で暴露される。

東西南北どちらへすら決めかねるなら、ダウンジングの棒でも持って発進すればいいんだろうか?

いや、あれは水脈だか鉱脈を探すんじゃなかったか?

山師のマストアイテムだからこの際相棒もマスターしておけばいいじゃない?


「すまない。瑞希。そんなに怒らないでやってくれないか。瑞希の気が向く方に行ってくれれば何の不満も持たないことだし」

「どっちへ行っても、わたしのせいで見つからないって不平を言いそうです」

山吹の取りなしもネガティブに返す。


スリングの中の相棒は瞳孔がガン開きでヒゲは全開耳は落ち着くことなくハタハタと余裕なく動いている。マズルはぱんぱんにふくれている。

異様な興奮状態である。

何度もわたしを見上げて、なんかを言おうとしているが、もはや言葉にならない。


何だその遠足の前の日に興奮しすぎて、当日発熱する小学生みたいなの。


あれか、「選べる修学旅行先!ロンドン、パリ、ミラノ、沖縄。お友達と作る思い出の旅先へ」

盛り上がりすぎてどこへ行くのが正解か決まらなくなったのか。

従姉妹の高校もたいがいな提案をしていると思う。

いや。京都の洛中でグループ行動するか、EU内でグループ行動の違いでしかない?


あぁ。なんかもう。濡れた黒い目で見つめる相棒がいじらしすぎてどうでも良くなってきたな。

「そんなに喜んでくれるなら、順番に全部当たってゆきましょう?運命の相手なんだったら待っていてくれますよ」

無責任な気休めを吐いて、とりあえず買い漏らした塩を調達する為に近くの街を経由して進むことにした。

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