表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
床下の迷宮  作者: へますぽん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/92

たぶん見込みなし、とは知っているんだけども

わたしは生涯食べてゆける身の上になった。

というわけで、先日から相棒にせがまれている。


「冬が来る前に一度探索の旅に出たい」


初夏ですが?

どれほど長い旅にわたしを連行するつもりなのだ?


「前回は帰路半ばで越冬するはめになり、とても苦しい思いをしたので早めに出て確実に戻ってきたい」

「苦しかったんならやめとけばいいじゃない」


例年より早めの雪が積もり、体温が下がって動きが鈍ったところを越冬前の肉食獣に捕捉され危うく死にかけたらしい。

ていうか、ほぼ死んでる状況だっただろう?良く帰ってきた。そして懲りろ。



「おれはこの群れじゃそこそこのオスなんだ」

しっかりしてる。頼もしい。

「ただ、リーダーじゃないし、もうすこし落ちる。そこそこでしかない」


「リーダーは多くのメスを得ている。その次のオスも。…そこそこのおれでは得られない」

上位のオスから順にいいだけ囲って行くと下位のオスは繁殖相手がいない。

モテと非モテのよく聞く話でもある。


というわけで外へ向かうのだ。

運命の相手はきっとどこかでおれが来るのを待っている。

たぶん。


「だってな。おじいさんが言っていたんだ。外で可愛いメスを見いだしたものがいた、って

それは一頭だけの話じゃなくて、

その前にも旅先で出会って連れ帰ったものがいたから

遠くまで探しに行ってついに運命の出会いを果たしたんだって」


オスは成獣になると迷宮の保守を担う。

侵入してきた外敵と戦う。落とし穴に誘導して嵌めたり、トラップを起動したり、主様の贄に捧げたり。

しくじると侵入者に捕らえられ毛皮にされる。危険な任務だ。


そこそこと自称していた相棒は長らく侵入者をいなして躱してじらして、小憎たらしいあしらいっぷりで逆上させた侵入者を贄にしてきたのだとサファイヤが自慢していた。

でも、モテていない。

金色はもっとすごいらしい。


それで、諦めた相棒は外に繁殖相手を探しに行きたいのだ。


「外に出かけても、メスどころか、繁殖地さえ見つからなかった。おれたちのご先祖がここに辿りついたということは近隣に元の繁殖地があると思うんだけど。その場所を知るものはいないし」

その繁殖地が現在もあるとは限らないというのを 呑みこんだ。


望みが薄い。


過去に数頭、外部から繁殖相手を得た者がいる。

微かな希望でしかない。

わずかな実績だけを頼りに危険な肉食の鳥や獣だらけの迷宮の外部に出て果たして成果が見込めるのか?

たぶんね、無理っていうのは感じてる。


でも絶対ないって言われていないからさ。

連れて帰ってきた勇者がいるからさ。


諦めきれない。


このままこの迷宮に居続けるのか。

待っている彼女を迎えにゆくのか。

ずっとずっと豪天号は暗い迷宮の中で燻る思いを抱え続けていたんだろう。


そしてわたしという足を得たのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ