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床下の迷宮  作者: へますぽん


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29/92

粗食

ずぼらな独り者なので

手抜き主婦の昼ご飯より酷い食事をとっていた。

わたしの知るもっともひどいものは、小麦粉を水で溶いたモノをフライパンで焼く。

終戦後の駄菓子屋で供された伝説のモンジャ焼きがそれに似ていると思う。

もうすこし文化的に暮らすわたしはオートミールをチンだ。


どや?


気が向くとお母さんぽいお惣菜も作るけど、職を失ってから気力が足りない日も多くて腹が満たされればいいや。

一人分だし。

まあまあ荒んだ暮らしぶりだ。


山菜を摘んで炊いたり、冷凍庫のサバを焼く日もあるのよ?

梅の酵母で起こしたパンを焼くこともあるし!

女子を捨てたわけじゃないけど、奮わない日もあるよね?


というわけで、世間のみなさまが心配する

『毎日おにぎりだけで飽きる』問題については、まったくご案じいただかなくてけっこうだ!

なんといっても米だからね。

米は問答無用で食べてしまうよ。

さらに今は豆も芋もある。


ただ、塩を買い忘れたのはちょっと失敗だったかも。

いまのところ気にしないことにしてる。

今度また豪天号に買出しに付き合ってもらおうとは思う。




さて、今日は新しいまじないに挑む。

魔法はイメージだ。より具体的に鮮明に、在るように、自分の中に描くことで具現するという。

おにぎりはまさにその通りだ。


唱えなくてもまじないは効くらしいけれど

「…ビーフボ-ルっ」

躊躇わず、言い切る。


身体の中をずるっと何かが動く感触がして、

両手の中に、陶製のドンブリ(ボール)に入った牛丼(ビーフボール)がっ。


でるんだ。


牛を丸めた骸が出なくて何よりだ。

英語の出来る人はたぶんこうならないだろう?

発音記号が身についてないんだよ。てへ。


3.3.4年と週に何時間も費やしてどうしてこんなに出来ないんだろう?

駅前留学でこの習熟度ならクレームが上がると思うの。

メソッドが間違っているんじゃないか?

十歳の現地の子どもより話せない、書けないのを国民が気にしていないっていうのが問題だが

わたしも無関心だったからな、そういうことなんだろう。


「あー!七味唐辛子と紅ショウガと生卵も欲しかった!」

引き払ったアパートの近所の肉屋の特製牛丼の味がして美味しい。

肉より白滝が多い、庶民感溢れる甘っ辛い濃いめの味付けが懐かしい。


「美味しー!!やっぱりまじない、すばらしいっ」


この感動を分かち合わなくてはっ。

「ねぇ、豪天号。これ塩気が強いけど、主様にお供えしても大丈夫?

脂も多くて味が濃いから身体に悪いかしら?」


「あー?人間もけっこう塩気を含んでいるし、大丈夫じゃない?」

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