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床下の迷宮  作者: へますぽん


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お供えもの

お月見のお団子のようにピラミッド型、四角錐におにぎりを積む。


最初、ところかまわずおにぎりを顕現させては、積みそこない、ちっちゃい幼獣たちがわらわらと集まってきては

「おむすびころころすっとんとん!!」

ときゃぁきゃぁはしゃぎ回っていた。すっとんとん、していないから。

幼獣たちがモチモチ動いている方がよっぽど ころころすっとんとんだぞ。

流し素麺の樋みたいなボブスレーコース作って幼獣滑り台にしたい。


チンチラころころすっとんとん。


「やめろ。うちの若いものを主様に差しだすのは最後の手段だ」

妄想が漏れていたようだ。ひどく険しい声で相棒に咎められる。


「流しチンチラはよろしくない?」

「すっとんとん。って献上されてくるものは主様への貢ぎ物だ。うちの仔を差しだすときは全てを失うときだ」

「縁起でもない。生贄みたいなことを」

「…おれらは小さくて弱い生き物だ。常に狩られる。もともとここへたどり着いたのは、単に逃げ込んできたそうだ。主様へは貢ぎ物(生贄)を差しだして、ここで暮らせるよう願った。…いまは侵入者を差しだすことで群れを守っているけれども…」


そうして主様とチンチラと共生してこの迷宮を保っているのか。


おにぎりも数が多いと重たくて運ぶのも大変と気づき

お供え場所で握るべきと思いついたのは、既に5、6個板の上に並べてからだった。

おにぎりの乗った板を抱え、保守通路を相棒の誘導でそろそろと進む。

幼獣が足元にまとわりつくので、ほんとうにすり足でそっと進む。

「踏むぞ!ぺちゃんこになってアンコでちゃうぞ!」


「あんこっ!」

「ぴゅーぅっ!」

はしゃぎすぎてテンションが上がりすぎた幼チンチラが転げ回りながらついてくる。

ほんとうに可愛らしい。

目に入れても痛くないらしいので、ちょっと二階からしてみても良いかな?

「ミズキ?二階ってどこだ?点すってなんだ?」

「伝説の、目薬の点しかた。二層に建てられた家屋の上階からポトリと垂らす作法。

顔にピタンってふわふわのちびっこが降ってきたらカワイイよねぇ」

口元がゆるゆるになっているわたしと足元でキャラキャラ笑う幼獣を指して相棒がキレる。

「おまえも、おまえらもはなしにならねぇっ!」

「…聞けよ。これから向かう場所では注意が必要だ。作法を守らないと主様に捧げるのは自身になる。ちゃんとおれの指示に従え」


急に真顔で注意をされたので、しゅんとする幼獣。要領の良い仔はそっと居室に下がって行く。

物見高い仔は息をひそめて、しれっとついてくる。


暗い窟屋の奥、暗がりにぼんやりと浮かび上がる鳥居のように朱い棒に囲まれて

祭壇がある。

装飾や細工などはない。ただ丹念に磨かれている。

「正面から入るな。正面から入るのは主様と主様に捧げられたものだけだ」

そういってぐるっと棒の周りを回って後ろ側から祭壇側面にでる。

「ぜったい前に回りこむな。捧げ物になる」

足元で幼獣がびくりっと身体を震わせる。覗きにゆくところだったらしい。

あぶなかったね。

気を取り直して祭壇の脚の匂いを確かめたりおにぎりを眺めている。

わたしはライスボールを唱えながら、アツアツおにぎりをもりもりと作り足して

祭壇におにぎりピラミッドを盛り付ける。

14個も熱いご飯を握るとさすがに手のひらが真っ赤になって痛い。


正面にはまわれないので、お供えを横から差しだすと、真っ赤な手のひらなのについ柏手を打ってしまう。手をあわせて頭を垂れる。

「主様、心から感謝しています」

生涯食べる心配がないなんて、ほんとうに幸せ。


ところで柏手でいいのかしら?

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