唱えてみよう
街で調達した芋や豆は加熱しないと食べられない。
というわけで、早速習得した呪いを活用しなくちゃ。
相棒を伴い、迷宮入口からすこし離れたところに石を積み炉を作る。
枯れ枝を拾い集めて短く折る。
風を避けて、積んだ枝に向かって風上から気合いを入れる。
「ファイアボールっ」
ライターの火ほどのしょぼさで放たれた火は指先から十数㎝先の枯れ葉を燃やす。
濃い白い煙が立ち上がる。
爆ぜる音がして細い枝に赤い炎がチラチラ動く。
無事着火した。
火の上にくるように豆と水のはいったナベをのせる。
太めの枝をくべて火力を安定させる。
枝を燃やす分には咽せるほどの煙がでない。
「呪い便利だねぇ」
「あの煙もすごく良かったぞ。あれはトラップに採用する。涙と鼻水が止まらないし、臭いもわからなくなって酷かった」
相棒が顔をしきりにこすっていた。風上にいてもランダムに風が吹き込んで多少煙を浴びてしまったのを吸ったらしい。
「目にしみるし、鼻がツンとして苦しいだけじゃなくて、熱い煙には内臓まで灼かれて死んじゃうからね。危ないのよ。あと燃料によっては発生する毒ガスもあってこれも危険」
「それは良いな。担当に伝える」
「いや。自爆するから。やめて。換気の悪いところで試したら一族もろとも大量死だよ?」
「あとで説明を聞きに行かせる。ちゃんと聞かせてほしい」
迷宮はさらに危険度を増すらしい。
さて、試みた定番、ファイヤボールが火を噴いたなら
「ウォーターボールっ!」
って気合いをいれれば。
あぁ。ほんとうに。
「出るんだ」
ピンポン球ほどの。大きめのビー玉っぽいのが目の前を落ちて行く。
パチャン。と足元で泥を跳ねかけて、消えた。
すごいな、呪い。
「…よし。わかった。わたしにはわかったっ!!」
そういうことだな?
両手のひらを上に向けて肘を引き腰を落として構えをとる。
そして、万感の思いを込めて唱えよう。
「…ライスボールっ!!」
熱い想いは手のひらの上に顕現した。
白いご飯が湯気を立てて手のひらを焼く。
「!っつ!っあっついぃー!!」
左右の手の中をホイホイと往復させながら、手を窪ませて形にして行く。
三角おにぎりだ。具がない、白結び。
だが、この呪いの可能性は無限大だ。
「わたし、これで生涯食べるものの心配をしなくていいのね?」
主様は太っ腹だ。
ほんとうに感謝しかない。
さっそくできたての白結びを山ほど積んで主様に捧げる。




