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床下の迷宮  作者: へますぽん


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焼き菓子は主様にお土産

買い物かごを持った如何にもお遣いって人の跡をつけてマルシェに着く。

こちらも行き交う人と買い物かごでガツガツぶっとばされる。

身体が接触するのが気にならない習慣らしい。

こちとら駅で身体が当たったら刃傷沙汰になる。肩が当たったと逆上してナイフで刺すもののいる街から来たので動揺しちゃうわ。


ドキドキしながら食料品や衣類、荒物などの露店と並んだ若いご婦人向けのアクセサリを売る露店を見つけた。

雪だるま型のつややかな淡水真珠が細い18K鎖でぶら下がっている可愛いけど安価なピアス。

耳元で揺れるのがモテの秘訣だという友達に勧められてセールで買った。

成果は出てないけど。


「これを買ってくれませんか?」

販売をしている人に頼むことじゃないと思うけど、ココでいっしょに並べれば転売も可能じゃない?っていう可愛い商品ラインナップだ。

客じゃないことにガッカリしたようすだったが露店主のお兄さんはすぐピアスに手を伸ばした。

「これは?」

「淡水パールと18金です。刻印もあります」

細い本体にそれはそれは小さな文字で18Kって刻印してある。

「すごい小さい字だな」

目を凝らして見つめている。

「なんて書いてあるか読めないけどな」

アラビア数字とアルファベットはお使いではない。…だよね。

「うちは金やパールのような高額品を扱っていないから、買い取れない」

並んでいるシルバーのアクセと価格帯が違うらしい。

そして、通りの向こう側の路面店を指し示した。

中古品を持っていくのか。ハードル高いわ。


しかし、ご飯を買わないことには飢えてしまう。背に腹は代えられないってこのことかよ。とヤケクソで眼鏡や指輪の並ぶ店の戸をグイッと押し込んだ。


弦のない眼鏡を鼻にのせた白髪少なめの鶴のように痩せた男が顔を向ける。

「ごめんください。わたしのピアスを買って欲しいのです」

「ウチは買い取りはしていないんだよ」

ですよね。

「でも、珍しい素材を使っていると思うんです」

さっきの露店の兄さんの素振りを見て気づいたんだ。

ここは高原だろう?淡水真珠は生産してないだろう?

そういって、巾着の中から白い雪だるま型の1対を差しだす。

「可愛いでしょう?すぐ欲しい人は現れますよ。人気のあるデザインなんです」

ありふれてる、ともいうがな。

耳元にもってゆき

「こうやって揺れるから、彼の目線をがっちりキャッチするの」

と店員さんは言ったけどさ。ダボハゼのように入れ喰いって友達もいってたさ。


だが、実際釣れたのは店の主(彼だけ)だったわけだよ。


露天商の兄さんのおかげで、

真珠の養殖は技術が確立してまだ百数十年ほどの新しい技術で、偶然の産出だけが頼りのレア宝石だっていうのも思い出したから、

当初千円くらいになればいいつもりだったけど、買った値段の十倍強までふっかけた。

使用感もある。と抵抗する店主と交渉の末、八倍もの高値で売り抜けた。

芋だけでなく果物やパンも買えそうだ。


マルシェで豪天号を抱きかかえるようにガードしながら

大量の芋と豆とスモモとパンや焼き菓子を買い込んだ。

持ち重りして腕が痺れるほどだったので、鮮やかな藍色に染められた大きな布も購入し風呂敷代わりに背にくくるほどたくさん買った。

腹側に豪天号、背に芋を抱えて身体は重いのに、気分が高揚して帰路の足取りが軽い。

「焼き菓子は主様にお土産!」

食べ物があるって嬉しい。



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