新 轟天号
「そろそろご飯がない」
私がそう言うとチンチラ達がビクリッと身体を震わせる。
「いや。いくら雑食でも世話になってる先の相手を喰うのは無理だから」
「でも、お前は干し草を食わないだろう?」
グレーが小首を傾げて見上げる。
カワイイ。
「小屋に戻るのも、あと何日かは避けたい」
ばったり出会っても逃げられると思うけど、それでもこわい。
「草刈り場の周辺で芋とか生えていないのかしら?」
自然薯、あるいは芋じゃなくてもジャックフルーツみたいな腹にたまるもの。
「そんな良いものがあれば畑なんかやらねぇ。ましてここを荒らしに来るわけねぇ」
別のグレーがちっちゃい手を振って否定する。
「木ノ実が多少。あとはベリー類。ハチや鳥と競合するので朝早い時間ならありつけるかも」
厳しい戦いである。そのうえ、自身が獣のエサになるリスクを抱えている。
「買い物ってそっちではできない?」
「買い物はカネが必要なんだぞ?」
すごい心配をしてくれる。なんて良いチンチラだ。
「食べ物代くらいにはなると思うの」
アクセサリーを換金できれば数日分の食べ物代になると思う。なってくれ。
チンチラに用意してもらった現地人の衣類を身につけ
二足三文にしかならないだろう、淡水パールのイヤリングとシルバーxアクアマリンのリングを小さな巾着に収め
ブラックベルベットを道中の案内役として懐に隠して出発する。
「絵本の登場人物がこんな身なりをしていたわ。学芸会に出るみたい」
「浮かれているとオオカミが出たとき逃げきれんぞ」
「ひぃぃぃっ」
ただ草地を進んでるだけで不安が募る。
深い藪を足早に進む。
「ねえ。ブラックベルベットはどうして町への道を知っているの?」
「そろそろオレも名で呼ばれたい。瑞希」
黒毛呼ばわりはイヤか。そうだよね。
「お名前は?」
「瑞希がつけろ。お前には発音できない」
「では、轟天号」
相棒の名前はひとつだけ。前の相棒は地震でもう廃車だ。
歴代の相棒は私を乗せてくれたが、この相棒は私を乗り物にするのだな。かわいい。
はじめての有機物の相棒。
彼は年頃のオスなので、伴侶を求めて辺りの探索に出たのだ。
そして、近隣にはチンチラのコロニーがないことが分かったそうだ。
副産物として人間の群を発見した、という。
「なるほど。デリケートな内容でしたね」
「いいんだ。これからは、お前を伴って更に探索範囲を拡げるから」




