コスパの良い主様
「…あれ、だ。主様、太っ腹だね」
ぐんぐんと大鎌を振るいながら、チンチラたちの主を讃える。
懐のブラックベルベットは満足そうに小さく唸る。
貢ぎ物に対して、主様は実に鷹揚に応えてくださる。
小さな欲望を想像以上に叶えてくださる。
おにぎりを転がした爺さんにも財宝入りの葛籠を与えた。
わたしには、結果にコミットした身体をくださった。
労働者の資本は身体だもの。身一つでどこにでも行けそうなすばらしいコンディションになった。
今なら走って逃げても元上司を振り切れそうな気がする。
高級スポーツクラブでトレーニングをするなら、インゴット換算で二個は必要になると噂で聞いた。
生活に余裕もなく貯金に励んでいたわたしは確認していないが、なるほどそれくらい支払えばジャンクフードや晩酌で無駄にカロリー摂って太るようなもったいないことは出来ないだろう。
「主様、ありがとうっ!いっぱい草刈って蓄えるわ」
「主様は草を召し上がらんけどな」
草刈りの範囲は少しずつ入口から離れてゆくが
ダッシュの速さが上がっていて野犬に負ける気がしない。
さすが主様。ってかんじの超常的な逃げ足なのだ。
胸まである草を薙ぎ払った影から、倒れた人間がでくる。
さっきから漂っていいた異臭はこれか。
すでにこときれている。
出口からここまで逃げて、力尽きたのだろう。
粗末な麻の服がちぎれ、あちこちに裂けた皮膚の傷から血が滲んでいる。薙ぎ払ったときに飛去ったムシがまた戻ってきた。
「瑞希、このへんの草はやめて」
「他の場所で刈るけど、このままにしておくと獣もくるでしょう?
っていうかなんでまだ来てない?埋めた方がいいんじゃない?」
「まだ、身体に主様の気配がついていたんじゃない?でも、そうだね。ムシも寄ってくるなら、そろそろ良くないか」
そういうと身を乗り出して、小さな桃色の手をヒラヒラさせながら、ないないと唱えた。
ポロポロと尻からこぼれた●をキラキラに変えた呪文だ。
黒ずんだ男の骸はごく微かな光を発して消えた。
そのまま他の場所の草を刈る気持ちになれなくて、乾燥した草をぎゅむぎゅむ丸めて居室に持って帰った。




