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床下の迷宮  作者: へますぽん


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17/92

いま一度、コロコロすっとんとん


ぶぃんぶぃんと扱いなれない農具(おおがま)を振り回したせいで

腕は言うまでもなく、腰や尻や腿、ふくらはぎと全身が痛みに襲われて

振り向くだけで悲鳴が出ちゃう。

ングゥとかグギャッとか唸り声に近いので、その都度チンチラがビクッとヒゲや身体を震わせて

申し訳ない。


「ぅううう。非力。ツラい」


シャツの肩を小さな手で握っているブラックベルベットがそれを聞きとがめる。

「どうした?…力が欲しいか?」


カジュアルに魔王みたいなことを言うな、チンチラよ。


「……。そうね。力持ちなら、元上司に脅かされないのか。あと、干し草もじゃんじゃん刈れるし。あったら良いわね」

しかし、いかな霊長類最強でも、体重差が大きいとひっくり返すのに手間取っていたから

力とテクニックだけじゃ現状打破は無理かもしれん。

だからといって力士なボディを得てまで元上司を張り倒したいかといえば、否なんだ。

本当に、心から、距離を置きたいだけなんだよ。


ぐりぐりと迫られてすごく怖い。

彼が怯む程度の力があれば。


「なにをもって(あがな)う?」

代償とするなにかを求めている?


「手持ちで最も高額なモノを差出せばいいの?」



夜逃げ同然だからね。ATMやクレカやペイを使わない決済も想定している。


100gインゴット。

法律で200万円を超える取引をすると役所に報告する義務が生じるので

小さいインゴットはちょっと割高でも使いやすいんだよ。

インゴットって延棒を想像するけど

100gしかないと、大きめのキャラメルほどだ。

親指と人差し指で作る丸の中の収まる。金が見た目に反して重いって言うのがよく分かるね。

叔父はkg(キロ)バーを胸ポケットにしまおうとして失敗していたよ。

シャツがちぎれそうだって。

ふつう、シャツのポケットはそんなに重いものを入れるように作ってない。


「これがわたしのひと月分の報酬です」

小さな金属片1個。ピカピカ。

購入した時はプラチナが安かったので、そのくらいで賄えた。

今はもっと値上がりしている。

嫁入りの資金にとコツコツ集めていたのだ。貯金だ。ガチの。


「自動車の排気ガスをきれいにする触媒や体内に入れる金属としても使われる貴重な金属なだけじゃなく

精錬には高い技術が必要で近代まで製品化されなかったものでもあるの」

レア度を強調しておく。

パラジウムや金に価格が押されているけどな。



「ならば、これで主様にお願いをしてみるといい」

続きは今週の土曜日朝六時に!

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