身の置き場が無い
「狙っているのは俺らの皮だけじゃない」
確かに言っちゃなんだが小さな毛皮1枚と可愛い自分の命と引き換えるのは割が合わない。
外套1枚に千匹屠ったっていうけど、弾いた毛皮もあろうからもっと多くの屍の山があっただろう。
それだけの量を罠満載のここで集めるのは、ちょっと無理じゃない?
「主の間への召喚場所を見ただろう?あの台に置かれたガラクタや主の間の宝物を狙っている」
「なんかキラキラ、ピカピカしていたもんねぇ」
「みずきも欲しいのか?」
「いや、今荷物増やすのは困る」
「やつらは高値で売るとはりきっているぞ?」
「販売先を持っていないのよ。しかもあの場所見るからに危険だったじゃない!」
真っ暗な窟屋の行き止まりにボンヤリと赤く浮かび上がる祭壇。
そこに捧げられているナニカ。
こわすぎて肝試しもしたくない。
そもそもこの通路もこわくて入るのを躊躇ってきたのだ。
怖がりなのよ。
しかし、今は外に出る方が生命の危機を覚えているため、こわくても留まっている。
ほんとうに身の置き場が無い。
干し草の匂いのする居室に戻りながらブラックベルベットに頼む。
「もうしばらくここに置いてもらえないかしら。主様にお願いできるかな」
「自分のエサは持っているか?」
「荷物をまとめて遠くに行くつもりだったから、三日くらいはだいじょうぶ」
「なら、居るといい。ここには干し草しかないから、お前のエサがない」
トイレはここだ。と戻るときに教わる。ところかまわずに粗相されると食事がダメになってしまうのだと躾された。
翌日、元上司は現れなかった、らしい。
真っ暗い居室にいるのも飽きて、本通路の外を見物に行ったのだ。
「本通路ほど危険じゃないから、いいだろう」
腕の中のブラックベルベットが許可する。
「外は上から鳥が来て我々をさらって行くが、お前は持ち上がらないだろうから大丈夫だ」
「ぜったい離さないから。鳥には気をつける!」
「あと、オオカミも出るが、主に日暮れだから大丈夫だろう」
…あまり大丈夫じゃないよ。
「穴から離れないようにするね」
「賢明だ。お利口ついでに少し草を持って帰ってくれ。お前なら多く運べそうだ」
そうして干し草の補充をすることになったのだ。
続きは来週月曜日六時です。
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