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盲目な婚約破棄

 王太子は、私が手に持っている写真をじっと見つめている。



 これからプロポーズしようとする女性のあられもない姿を見せつけられて、さぞかしテンパっているのだろうと思いきや、アランは、一言、


「やはりミリーは裸体も美しいのだな」


などと耳を疑う台詞を残しただけだった。



「アラン、何言ってるの? あなたの大好きなミリーが、実はとんだアバズレ女で、あなたに愛想を振りまきながら、あなたが信頼する料理人、護衛隊長、詩人のいずれとも寝てるのよ? 当然、ミリーはお城から追放でしょ?」


「ミリーにはミリーの事情があるのだろう」


 この男、一体何を言っているのだ。

 どこまでミリーを擁護するつもりなのか。



「アラン、盲目にもほどがあるわ!! 事情って何?? 4股を正当化するような事情なんて存在するわけ??」


「うーん。たとえば、男に無理やり襲われたとか。ミリーは魅力的だからな」


――なるほど。そう来たか。


 アランがミリー全肯定なのは今日に始まったことではない。これは和姦ではなく強姦である、と主張することは想定済みである。

 私はこのパターンも想定し、今日まで入念に準備をしてきたのだ。



 私は、封筒の中に再び手を突っ込むと、先ほどアランに見せたのとは違う3枚の写真を取り出した。


 被写体は同じだし、男女ともに一糸をも纏っていない点も先ほどと同じだが、構図がだいぶ違う。


 すなわち、今回の3枚は、ミリーが男性陣の上に跨がっている写真なのである。



「アラン、この写真を見て。どこが無理やり襲われてるのかしら? むしろ積極的なのはミリーの方よ」


 もしこの写真を見せてもなおアランが、ミリーが犯されていると主張するのであれば、封筒の中にはさらに生々しい手札が何枚かあった。



 チェックメイト。これでゲームクリア。私は無事現実世界に戻ることができる



……と思ったのも束の間、アランは、私が思っている以上にイカれていた。



「マチルダ、ミリーが俺以外の男と寝ることの何が問題なんだ?」


「……へ?」


 今度は私がキョトンとする番だった。



「だって、ミリーと俺とはまだ婚約をしていないんだ。婚約をした後に別の男と寝たとすれば、それは問題かもしれない。しかし、婚約前に誰と寝ようが、それは浮気でもないし、不倫でもないだろ? 違うか?」


 違う!!……とも言い切れない。


 たしかにそれは正論だ。


 正論だが、アラン、本当にそれでいいのか?



「アラン、冷静に考えてよ!! 3人よ!! 3人!! 同じ時期に3人の男に股を開いてるのよ??」


 私は、人差し指と中指と薬指を立てて、精一杯「3」をアピールする。



「マチルダ、冷静になるべきなのは君の方だ。俺は、婚約前のことはお咎めなしだと言っているんだ。別に同時に何人と関係を持っていようが構わない。婚約前はね」


「何なの?? 婚約前ってそんなに自由なの?? 最強じゃない?? だったら、アラン、早くミリーと婚約してよ!!」


「分かった。じゃあ、マチルダ、君との婚約は破棄ということで……」


「待って!! ストップ!! それはダメ!! 前言撤回するわ!!」


 たしかに私が冷静にならなければいけないのかもしれない。


 私は、乙女ゲームをナメていた。


 王子様がヒロインに盲目であることも、ヒロインが何をしても許されることも、乙女ゲームの世界においては常識である。

 とはいえ、ここまでとは思っていなかった。


 

 乙女ゲームの世界の常識が、こんなにも非常識だなんて!!



 アランのポリシーが「婚約前には何をしてもOK(ただし、ヒロインに限る)」だとすれば、これまで私がしてきた準備は全て不発ということになる。


 ミリーが婚約前にどれだけヤリマンだったかを証明しても意味がないのである。

 

 乙女ゲームの理不尽さを前に、私は完全に敗北したのである。



「うわあああああん」


 その場で泣き崩れる私。



 アランはそんな私を力強く抱き上げると、耳元で優しく囁いた。



「マチルダ、今までありがとう。君との婚約を正式に破棄する」


 この作品のpt評価が100ptを超えました(10月25日12時00分で110pt)。


 ストーリーが序盤の段階で過分な評価をいただいたことを、大変ありがたく思います。

 また、高取和生様よりレビューもいただきまして、身の引き締まる想いです。


 いただいた評価は、文字通りの「評価」ではなく、期待度のようなものだと思っています。

 皆様からの期待を裏切らぬよう、丁寧かつ迅速にストーリーを書き上げたいと思っておりますので、応援のほどよろしくお願いいたします。

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