表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/26

無理ゲーの攻略法

 この狂った世界において、唯一まともな設定があるとすれば、それは、王太子が、婚前はプラトニックを貫くところである。


 もしも王太子が国王になった時に、将来王妃となる女性以外の女性との間で子どもを持っていたとすれば、場合によっては国全体を揺るがす事態となってしまう。

 その意味では、この設定は合理的だといえる。


 とはいえ、この設定は、「ドキゆらキャンドルナイト」全体の雰囲気の中ではだいぶ浮いている。


 なぜなら、ヒロインであるミリーは、アラン以外との男性陣との間では、いとも簡単に関係を持つからである。


 もしこのゲームが市販されるものであれば、R18設定を付けなければならなかっただろう。


 それくらいにミリーはすぐ男と寝る。



 現実世界の私は、17歳の女子高生である。しかも、男性経験はゼロ。


 もし私がミリーに転生していたら、と思うと、心臓が持たなかっただろうなと思う。


 クシャルもロウもカシージョも、ルックスは一級品である。


 取っ替え引っ替え彼らの腕に抱かれるというのは、ゲームをプレイしていても興奮したわけだが、それが実際のこととなると、私にはあまりにも刺激が強過ぎる。



 その意味では、転生先がマチルダであることは、安心である。


 アランとは婚約者の関係であるといえども、寝室は別であり、キスすら求められることはない。

 

 これは、アランの気持ちがミリーに移っていることとは関係なくそうなのである。アランは、(恋人繋ぎこそするものの、)ミリーとも寝ることはない。

 結婚をするまでは。



 チュートリアルにおいて、げそまろPは、マチルダをハッピーエンドに導ければ、ゲームクリアとなり、私を現実世界に帰してくれると言っていた。


 マチルダにとってのハッピーエンドは、当然、アランと一緒になることだろう。つまり、アランとの結婚である。


 それ以外の3人と結婚することは、マチルダにとって幸せなのかどうか分からない。

 そもそも、あの3人の毛嫌いのしようを見れば、結婚という未来は見出しがたい。



 どうすれば、アランと結婚することができるのか。


 子どもという既成事実を作るという方法は、このゲームの設定上、不可能である。


 逆から言えば、ミリーも婚約者から王太子を寝取ることはできない。身体での勝負にはならない。



 とすると、身体ではなく、人間的な魅力によってアランを惹きつけるという正攻法が思い当たるのだが、ここもなかなか難しい。


 なぜなら、アランも、他の3人ほど露骨ではないものの、私のことを悪とみなしている。


 そのことは最初の朝食会での発言からも明らかであるし、その後、何度かやりとりしていても、言葉の節々から感じられた。


 私が普通に優しく接しようとすると、「君らしくない。やめてくれ」とまで言われる。



 そもそも私からすると、なぜアランが私を見初め、一度は婚約者としたのかがよく分からない。


 見た目にも中身にも何の取り柄もないミリーに靡いているところを見るにつけても、アランの好みは理解不能だ。


 どうすればアランを惹きつけられるのか。


 私は、一体どのベクトルで頑張ればいいのだろうか。


 何も分からない。



 とはいえ、このまま何もしなければ婚約破棄に追い込まれることは、シナリオ上明らかである。


 何かを変える必要があるのである。




 約半年の間、私はどうすればいいのか分からず、何とか足掻こうとはしていたものの、今から考えると無為に日々を過ごしていた。



 そんな風に焦燥感だけを募らせていた、ある昼下がり。



 廊下でバッタリ顔を合わせたミリーは、なぜか満面の笑みだった。



「マチルダ様、ちょうど良いところにいました!! 一緒にお庭にお花を見に行きましょう!」


 私の気持ちなどつゆ知らない、ノーテンキな声だ。

 


 イラッとした私は冷たく突き放す。



「なんで私があなたと花を見に行かなきゃいけないわけ? 花になんか興味ないわ。除草剤をまいて枯らしてしまおうかしら」


 日頃のストレスのせいとはいえ、いかにも悪役令嬢な台詞が自然と出てくることに、自分でも内心驚いていた。



「マチルダ様、何か嫌なことでもあったんですか?」


「余計なお世話よ」


 そう言って私は、ミリーから目を外らし、廊下を進む。


 そして、すれ違いざまに、彼女の膝を思いっきり蹴飛ばした。


 「痛い!」と小動物のようなか細い声を上がる。


 いつの間にやら、私は、湯原真智ではなく、マチルダになってしまったようだ。


 やってることが、ゲームの中のマチルダそのものだ。



 この時、私を支配していた感情は、憎しみだった。


 ミリーが憎い。憎い。


 ブサイクな顔を見るだけで虫唾が走る。


 甲高い媚びた声も耳障りだ。



 どうしてこの凡庸以下の女が、お城の中でちやほやされ、私に取って代わって将来の王妃になろうとしているのだろうか。


 どう考えてもおかしい。


 どうしてこんな「非常識」がまかり通るのだろうか。



――全部アランのせいだ。アランがご乱心で、ミリーを見初め、城に連れてきたのが諸悪の根源なのだ。


 アランがあまりにも盲目なのである。


 アランは、一体、あの女のどこが良いというのか。


 アランは、あの女の本性を知っているのだろうか。


 あの女は、アランが思っているような純真無垢な女じゃない。


 アランの寵愛を受けながらも、あの女は平気で別の男にも股を開いて……



――そうか。()()()使()()()()()()()


 こんな簡単なことに半年間も気付かなかった私はバカである。


 この「無理ゲー」の攻略法が、私にはハッキリと見えた。



 婚約破棄まで、もう半年間ある。


 この半年間でしっかりと「準備」をして、婚約破棄阻止を勝ち取るのだ。



 「ドキゆらキャンドルナイト」を全クリした湯原真智の知識さえあれば、必ず上手く行くはずだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ