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乙女ゲームの不条理

 結局、アランとミリーとの出会いを阻止することはできなかった。


 シナリオ通り、王太子と町娘は出会い、互いに一目で恋に落ちたのである。



 そうなる運命を知りつつ、お城での待機を命じられた私は惨めだった。


 自分の寝室に閉じ籠り、枕を涙で濡らす、ということまではしなかったが、ベッドの中でずっとうずくまっていた。



 とはいえ、今考えてみると、その日が一番マシな日だった。



 本当の地獄は、アランがミリーをお城に連れてきてからだったのである。



 ミリーがはじめて門を越え、お城の敷地に訪れた際、ゲーム上のテロップはたしか「ミリーは、アランに手を引かれ、お城に導かれた」だったと記憶している。


 しかし、マチルダになった私が、自室の窓から目撃したその光景といえば、恋人繋ぎでルンルンと城門を潜る2人だった。


 どこが「手を引かれ、お城に導かれた」なのか。


 まるでお城でなくラブホに入るかのようじゃないか。


 これからヒロインと悪役令嬢との熾烈な王太子争奪戦が始まるものと思っていた私にとって、この光景は、のっけからの敗北宣告だった。


 私は出血するくらいに強く唇を噛み締めた。



 さらに私のメンタルに追い討ちをかけたのは、他の男性陣3人の態度だった。


 クシャルもロウもカシージョも、いずれもミリーを一目見るや、顔を赤くし、目の色を変えたのである。


 カシージョに至っては、その場で、ミリーをチューリップ、自分を蝶にたとえた詩を詠んだほどである。



 ゲームをプレイした身として、この展開は承知はしていたが、承服できないものだった。


 そもそも、ミリーは、そばかすだらけのみそっかすだ。

 少しも可愛くない。

 こんな女に一目惚れする男は、おそらく現実世界にはいない。


 他方、王太子が視察に行っている間、鏡で自分の姿を確認したが、つり目が少しきつい印象ではあるものの、なかなかの美人だった。


 現実世界ならば、圧倒的に私の方がモテる。

 

 それにもかかわらず、アラン以外の男性陣は、私を女として見ることは一瞬たりともなかった。


 試しに猫撫で声でロウにアプローチしてみたが、「何か悪巧みがあるのか」と一蹴されただけだった。


 性格に難ありと見られているのだろうと、1週間くらいあえて言葉を発しないでいた時期もあったが、「黙っていれば美人」とはならないようで、クシャルに「何もせずお城にいるだけでタダ飯が食えるなんて良い身分だな」とイヤミを言われただけだった。


 もっとストレートに、「私って綺麗?」とカシージョに尋ねてみたところ、「宝石でたとえると、石だ」と、思い遣りも言語センスも欠片もない回答が返ってきた。



 彼らは総じて私に関心がなく、さらに言えば、嫌っている。


 他方、ミリーに対しては、常にメロメロで、目に入るやいなや、何かと理由を付けて近付いていく。


 たとえるならば、汚物に集るハエのようである。

 


 乙女ゲームとはそういうものだとは知っていたものの、実際にその世界に入ってみると、あまりにも激しい現実との乖離に閉口する。


 今までの自分を棚に上げて、乙女ゲームをプレイしている人間の気が知れないなと思う。



 この世界は完全に狂っている。


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