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完全犯罪

 さて、話を少し戻そう。


 私は、洞穴でミリーを殺害し、時間をかけて「サディストによる犯行」を偽装した後、彼女が着ていたウエディングドレスからベールを剥がし、それをビリビリに破いた。


 そして、それを持って、披露宴会場のある建物へと戻った。


 着ていた服は返り血で真っ赤になっていたが、ミリーを殺す前に着替えは済ませていたので、元々着ていたドレスは控室のハンガーに掛けてあった。


 シャワーを浴びた後、私はそのドレスを着て、ベールを持ち、新婦控室の前に行った。



 そして、ベールを床に落とすと、大声で叫んだのである。



 叫んだ目的は2つある。


 王太子を目覚めさせること、そして、「緊急事態の発生」を男性陣3人に伝えることである。


 男性陣3人に宛てた手紙には、「緊急事態が起こらない限り、その部屋でじっと待っていろ」と書いてあった。


 私の悲鳴を号令として、彼らの待機は解かれたのである。



 悲鳴を聞き、男性全員が新婦控室の前に集合した。



 この場面で私が心配していたのは、新婦控室の前に向かう途中の廊下で、クシャル、ロウ、カシージョのいずれか同士で鉢合わせしてしまうことだった。

 

 彼らには、()()()()の者は披露宴会場にいると思い込ませなければならない。つまり、自分以外の者は、披露宴会場から新婦控室に向かっていて、自分だけがそうではない待機場所から新婦控室に向かっているように見せかけなければならない。披露宴会場と新婦控室との間の導線上以外で鉢合わせがあったらマズイ。そのようなことがあれば、自分以外の者も別室にいたことに気付かれてしまう。


 ゲストの控室は、2階の同一の廊下に面し、列になって並んでいた。そのため、それぞれの控室をそのまま待機場所にしてしまうのはあまりにも都合が悪かった。


 ゆえに、私は、彼らの待機場所をあえて遠くに引き離したのである。

 具体的には、クシャルは1階の南にある部屋、ロウは2階の東にある部屋、カシージョは3階の西にある部屋にそれぞれ待機してもらっていた。そうすることによって鉢合わせをする可能性を極力減らしたのである。



 結果的には、私の思惑どおり、計画を阻害する鉢合わせは起きなかった。




 無惨に変わり果てたミリーとのご対面を果たし、5人が披露宴会場へと移動した後が、私にとって正念場であった。

 


 アランによる犯人探しが始まったのである。


 犯行現場に三種の神器を残した目的については先ほど述べたが、三種の神器を残すことにはデメリットもあった。


 それは、犯人候補をお城の関係者に絞ってしまうことのリスクである。



 もっとも、生前にミリーがアランに対し、彼女の身に何かあったときは私のせいだと思うように、と伝えていたであろうことからすると、結局、私が犯人であるという可能性を積極的に排除しない限りは、私が犯人とみなされてしまう。外部犯の仕業に見せかければそれでよいというわけではないのである。



 大事なことは、私が犯人でないことを立証すること、つまり、私に鉄壁のアリバイがあることを示すことなのである。


 

 それを示せるのであれば、あとはお城の関係者に疑いが集中しようがどうしようが私には関係ないのだ。



 案の定、アランは、三種の神器を手がかりに、犯人候補を、クシャル、ロウ、カシージョ、私の4人に絞った。



 そして、「名探偵」アランは、死体の指の骨が丁寧に1本1本折られていたことから、犯行には1時間半程度の時間を要することを見事に見抜き、殺害時刻のアリバイこそが犯人特定の鍵にあることを正しく指摘したのである。


 アランは、ミリーとの恋愛に関しては不合理なまでに盲目だが、それ以外の場面では論理的に物事を判断できるタイプである。


 まさに私が期待したとおりの活躍だった。




 ここで、ついに私の「鉄壁のアリバイ」が試される時が来た。


 このアリバイは、時刻表や何らかの物理的な仕掛けによって作られたものではない。


 クシャル、ロウ、カシージョの3人の「虚偽証言」を引き出すことによって作られるものなのである。



 殺害時刻のアリバイの有無をアランに尋ねられた時、3人は閉口した。


 当然である。


 私の手紙の指示に従い、披露宴会場ではなく、それぞれ別室で待機していた3人には、アリバイは一切存在しない。


 そして、彼らの認識するところによれば、私を含む、自分以外のメンバーは、全員披露宴会場にいるはずだから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()(実際には、犯行に及んでいた私も含め、4人全員にアリバイがないにもかかわらず)。



 ゆえに、3人とも、アリバイについて何も言い出すことができなかった。



 素直に、別室に待機していたと発言するわけにはいかない。


 仮にそのように発言した場合には、(彼らの認識の中では、)犯人候補は自分1人に絞られる。


 その上で自分の嫌疑を払拭するためには、真犯人にハメられた、と主張するしかないだろう。

 すなわち、真犯人から別室に待機するように命じられたが、それは自分を犯人に仕立て上げるための罠だった、と。


 それは真実ではあるのだが、なかなか言い出しがたい。


 なぜなら、証拠となる手紙はすでに処分されていて存在していない。

 なぜ真犯人の指示に従ったのかという話になれば、脅されていたことの唯一の証拠として、三種の神器を使ったSMプレイの写真を見せるしかないのである。


 アランが信じてくれればいいが、そうでなければ、死体の状況からして、自らが犯人である疑いをむしろ高めてしまい、逆効果である。



 また、自分にはアリバイがある、と嘘をつくこともできない。


 なぜならば、彼らの認識の中では、自分以外の3人は、披露宴会場にいることになっている。

 当然、その3人は、自分が披露宴会場に現れなかったことを知っており、あからさまな嘘をついてもすぐにバレてしまうので意味がない(と彼らは錯覚している)。



 まさに袋小路なのだ。


 アランの追及に対し、3人が黙り込むのも無理はないのである。



 男性陣3人が沈黙する中で、私は、予め決めておいた台詞を述べた。



「アラン、私たちは()()で、あなたとミリーが現れるのを待っていたわ。この披露宴会場でね」



 この台詞こそが、私が考えた完全犯罪計画の大事な総仕上げなのである。



 私からこの台詞を聞いた男性陣3人は、瞬時に2つのことを悟るはずである。



 1つ目は、自分たちに手紙と写真を渡した上でミリーを殺害した真犯人は、私ではないこと。


 なぜならば、私の発言は、追い詰められた彼らに対する助け舟なのである。

 

 あのように死体を演出し、彼らからアリバイを奪い、彼を殺人犯に仕立て上げようとしている真犯人が、彼らに救いの手を差し伸べるはずがない。

 

 私が真犯人だとすれば、自ら計画した犯行計画を、自らの手で崩しているようなものなのだ。


 普通に考えれば、そんなマッチポンプはあり得ない。


 真犯人は、悪役令嬢であり、ミリーのせいで婚約破棄に追い込まれた私に違いない、という想像は、彼らの頭の片隅にはあったはずだが、この台詞によって、私はその想像を掻き消したのである。


 なお、私が真犯人ではないということは、当然、私は披露宴会場にずっといたということになる。彼らはこのことも確信したはずである。



 彼らが悟ったであろう2つ目のことは、披露宴会場にいた3人は、嘘をついてまで自分をかばおうとしている、ということである。


 彼らの認識では、披露宴会場にいた3人は、自分がそこにはいなかったことを知っているはずである。

 

 それにもかかわらず、披露宴会場にいた者が、自分をかばい、自分は披露宴会場にいた、という嘘をついてくれたのである。

 

 しかも、その嘘をついたのは、もっとも自分とは敵対していると思われた悪役令嬢なのだ。


 悪役令嬢ですら自分をかばってくれた。とすれば、他のメンバーはなおのこと自分をかばい、虚偽のアリバイを作ってくれるに違いない。

 そう信頼させ、他のメンバーを信用して、自らも虚偽のアリバイを主張しよう、と決意させることが私の狙いだった。



「アラン、私たちは()()で、あなたとミリーが現れるのを待っていたわ。この披露宴会場でね」



 台詞を言い切った後、私は、祈るような気持ちだった。


 

 果たして、私の思惑どおり、他の3人もこの台詞に乗っかり、「全員が披露宴会場にいた」と「虚偽の証言」をしてくれるのかどうか。


 全てはそれにかかっていたのである。



 他の3人の発言を待っていた時間は数秒だったと思うが、数分にも数時間にも感じられた。



 私ができることは全てやり切ったはずだ。


 あとは3人が、私の台詞の含意することを正しく悟り、私の台詞を信じ、自らを擁護するための虚偽の証言をしてくれるかどうかだった。




 結果としては、3人全員が、私の台詞に乗っかり、「全員が披露宴会場にいた」と「虚偽の証言」をしてくれた。


 その証言が、実際には、他でもない()()()()()アリバイ証言であることに気付かずに。


 私の勝利である。



 信頼できる男性陣が3人とも披露宴会場にいたにもかかわらず、誰も私の不在を指摘しないということで、当初は私を疑っていたに違いないアランも、私に鉄壁のアリバイがあることを認めざるを得なかった。



 そして、「披露宴会場にいた」4人全員にアリバイが成立した以上、もっとも立場が悪いのは、新婦控室で1人きりで寝込んでいたアランということになる。


 彼だけがアリバイを有しない。



 私がそのことを指摘したことにより、アランは、嫌疑を逃れるために、アッサリと内部犯説を捨て、犯行を外部によるものとして、追及を打ち切った。



 見事、私の一世一代の挑戦が実り、起死回生の完全犯罪が成立したのである。


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