蹂躙された死体の見立て
クシャル、ロウ、カシージョの控室に赴いた私は、それぞれの部屋の机に、三種の神器を用いたプレイ中の写真を置いた。
クシャルの部屋には、ベルトを使ったムチプレイ中の写真。
ロウの部屋には鏡を使った辱めプレイ中の写真。
カシージョの部屋にはネックレスを使った首締めプレイ中の写真。
そして、写真には、以下のような手紙を添えた。
「あなたが王国を侮辱する行為を行ったことは知っている。同じような写真は他にもたくさんある。王太子にあなたの秘密を隠したいならば、披露宴には出席するな。この手紙を見たら、この手紙を置いたまま、すぐに○階の○○室に移動しなさい。そして、緊急事態が起こらない限り、その部屋でじっと待っていろ」
私が写真で脅すことで3人に命じたことは、披露宴会場に来ないことだったのである。
披露宴を欠席することは、後でアランやミリーにチクチク言われる可能性はあるが、犯罪行為ではないし、倫理に反する行為でもない。「お腹を壊していた」などと後で言い訳をすることもできる。
そのため、危険な遊びが露見し、お城や国から追放されることと比べ、命令に従うことは幾分もマシな条件だったのである。
なお、手紙の中の「○階の○○室」の部分だが、クシャルは1階の南にある部屋、ロウは2階の東にある部屋、カシージョは3階の西にある部屋を指定した。
つまり、それぞれ遠く離れた部屋を指示したのである。後で説明するが、そうすることが、今回のトリックを成立させるためには不可欠だったからである。
実際に、クシャルもロウもカシージョも、いつまで経っても披露宴会場には来なかった。
もちろん、睡眠薬で眠らされているアランとミリーも披露宴会場に訪れることはない。
そのため、披露宴会場のホールは、私が出入りすることを除けば、誰もいない空っぽの状態だったのである。
もっとも、披露宴会場が空っぽであることを知っているのは、私だけである。
クシャル、ロウ、カシージョの3人は、自分だけが披露宴会場に現れず、他のメンバーは全員披露宴会場にいたと思い込んでいる。
アランだってそうだ。私を含めた4人全員が披露宴会場にいることを前提として、披露宴会場から1時間半離脱していた者を犯人として糺弾しようとした。
完全犯罪のために私が作り出したものは、「自分だけがいない披露宴会場」というフィクションなのである。
私は、このフィクションを利用することによって罪を逃れたのだ。
教会での挙式が終わった後、私は、しばらく自室でじっとして、私の仕掛けが発動するのを待った。
すなわち、新郎新婦が眠りに落ち、男性ゲストがそれぞれ手紙で指示された部屋に移動するのを待った。
その上で、まず男性陣3人の控え室に行き、手紙を処分した。
手紙には「この手紙を置いたまま、すぐに○階の○○室に移動しなさい」と明記されていたため、3人とも机に手紙は置きっぱなしだったのである。
その後、披露宴会場に置いてあったカートを引き、ミリーの控室に入り、熟睡する花嫁を殺害現場の洞穴まで運んだ。
そして、ミリーの首を絞め、殺害した。
最期の最期にミリーが命乞いをしてきたことは、今考えても滑稽で仕方がないことである。
ミリーの死亡を確認した私は、彼女が着ていたウェディングドレスを脱がし、裸体を露出させた。
そして、私は、その裸体にナイフやロウソクを使って、傷や痣を複数つけ、さらに、致命傷となった索状痕のほかにもロープを使って、いくつもの首筋の跡をつけた。
そして、時間をかけて、彼女の指を1本1本折っていった。
加虐趣味などこれっぽっちもない私が、どうしてミリーの死体にこのような残酷なことをしたのかというと、目的が2つあった。
1つは、殺害に時間がかかっていることを伝えるためである。
犯行は時間がかかっているものであり、犯人には1時間半もの不在時間がある、という状況こそ、私が必要とするものだった。
もう1つは、犯行をサディストによるものに見せかけるためである。
普通の人間は、女性を裸にした上で、傷だらけにし、しかも、指を1本1本折って殺害するなどということはしない。極度の加虐趣味を持った異常性癖者こそ、このような犯行をしかねないのである。
そして、最後の仕上げとして、私は、お城からこっそり持ち出してきた三種の神器であるベルト、鏡、ネックレスを死体の周りに置いた。
お城の宝物で飾り付けることによって、儀式的な意味を持たせたかったわけでは決してない。
サディストである犯人が、ベルトもしくは鏡もしくはネックレスを使って事を致した後、ミリーを死に至らしめてしまったという構図を作るためである。
この構図は、アランに見せるためのものではない。
クシャル、ロウ、カシージョの3人に対し、真犯人からのとあるメッセージを伝えるための構図なのだ。
そのメッセージとは、「お前を犯人に仕立て上げた」というものである。
3人は元々弱みを握られていた。
それは、写真をアランに見られてしまえば、国家を冒涜したものとして、お城や国から追放されてしまう、というものである。
もっとも、その弱みは、格段に強化された。
このような殺害現場を見られた後で、三種の神器を使ってミリーを傷めつけている写真の存在が露見すれば、ミリー殺しの犯人として断定されてしまうのである。
しかも、指示された部屋でじっとしていた3人には、犯行時刻のアリバイもない。
手紙もすでに手元にはない。
そのため、ミリーの死体の様子、そして、洞穴内の三種の神器を見た3人は、いずれも放心状態となったのである。




