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乙女ゲームの秘密

 物事は全て私の想定通りに進んだ。私の勝利である。



 私は完全犯罪を成功させ、ミリーとアランの初夜を阻止したのだ。




 離島に到着した私は、他の5人とは別行動を取り、披露宴会場のある建物内で隠密行動をとった。


 隠密行動の内容は、大きく分けて2つあった。


 1つは、新郎控室と新婦控室に、睡眠薬の入った水を置いたことである。

 アランとミリーが実際に口にし、失神したかのように眠ってしまった、あの超強力睡眠薬である。



 そして、もう1つ行ったことは、クシャル、ロウ、カシージョの控室に行き、写真と手紙を置いたことである。



 写真は、封筒いっぱいに入った例の写真である。


 私が湯原真智の知識をフル活用し、アランに対してミリーの本性を明かし、私との婚約破棄を思いとどまってもらうために撮影した写真だ。



 しかし、今回、男性陣3人の控室に置いた写真は、アランに見せた写真とは異なるものだった。



 それは、ミリーと男性陣が、三種の神器を()()()()にして行為に及ぶ写真だったのである。



 ここでついに明かさなければならない。


 この乙女ゲーム「ドキゆらキャンドルナイト」が不人気ゲーである最大の理由、すなわち、このゲームが依拠している()()()()()について。



 このゲームでヒロインを誘惑するクシャル、ロウ、カシージョは、()()()()()なのである。


 彼らはミリーをベッドに誘い、SMプレイを強要する。


 彼らからありとあらゆる手段で責められ続けるうちに、普通の町娘だったミリーは徐々に調教され、マゾヒスムに目覚めていく。



 ここまで明かせばお気付きかもしれないが、このゲームのタイトルの「キャンドルナイト」とは、結婚式の夜、海岸の洞穴で、揺らめくロウソクの下、アランとミリーが語り合う場面から取っているというわけではない。


 SM道具であるロウソクを使った夜の遊びを指しているのである。



 そして、私がミリーの殺害の場面で使ったロープも、SMプレイ用にお城にあったものを持ち込んだものなのである。



 こんな異常性癖を前面に押し出した乙女ゲームが人気になるはずがない。


 湯原真智だった頃の私だって、このゲームの「本性」を知っていればダウンロードはしなかった。


 パッケージに描かれていた男性陣の爽やかなビジュアルに騙されたのである。


 何も知らずにプレーをしていたところ、クシャルとの最初のベッドシーンでいきなり手錠を嵌められ、唖然としたことを覚えている。



 正直、めちゃくちゃ引いた。


 

 すぐにPCから削除しようと思ったのだが、ストーリーがある程度進んだところだったので、続きが気になってしまった。

 怖いもの見たさ、というやつかもしれない。


 それから間もなく、クシャルだけではなく、ロウもカシージョもサディストであるということが判明するわけだが、クシャルの時に感じたほどの抵抗感はなかった。


 感覚が麻痺していっていたのだ。


 要するに、ミリーとともに、私も調教されていってしまったのである。



 サブ攻略対象であるクシャルとロウとカシージョがいずれもサディストであるということは、メイン攻略対象であるアランはそれを超えた「キング・オブ・サディスト」に違いないと思うかもしれない。


 しかし、実際はそうではない。



 むしろ、アランは、ノーマルなのである。



 このことが「ドキゆらキャンドルナイト」の変態性をさらに高める要素になっている。


 というのも、純真な本命に隠れて、他の男と危険なプレイに興じる、という「背徳感ゆえの興奮」こそが、このゲームの醍醐味だからだ。


 マチルダがヒロインの当て馬役で用意されたキャラクターであるのと同様に、アランも、メイン攻略対象でありつつも、ヒロインの背徳感を高め、興奮を高めるために存在している当て馬的キャラクターなのである。


 王太子と結ばれ、将来は王妃になる女性が、実は他の男から奴隷調教を受けているだなんて、ゾクゾクするよね? え? 共感できない?


 そんな方にはぜひ食わず嫌いをしないで、「ドキゆらキャンドルナイト」を全クリまでやって欲しい。



 

 さて、話を三種の神器に戻そう。



 この三種の神器こそ、極上の「背徳感ゆえの興奮」を導くためのアイテムなのだ。


 三種の神器は、黄金のベルト、鏡、ネックレスの3つの宝物で構成されている。


 このうち、クシャルのお気に入りはベルトである。


 クシャルは、ミリーとのプレイにおいて、このベルトをムチ代わりに使うのである。宝物のベルトで、ミリーの裸体をビシビシ叩くのだ。

 もちろん、単純にSMプレイでの便宜を考えれば、普通のムチを使った方が良い。しかし、この国の由緒正しきお宝であり、アランも大事にしているこの「ムチ」を使った方が、はるかに背徳感がある。

 ゆえに、クシャルは「背徳感ゆえの興奮」のために、わざわざ国宝であるベルトを拝借して使っているのである。



 ロウが好んで使っていたのは、三種の神器のうち、鏡である。


 SMに詳しくない人はあまり知らないかもしれないが、鏡に姿を映されながら辱めを受けるというのも、立派なSMプレイである。

 ガタイの良い見た目には似合わないが、ロウはこのプレイをとても気に入っており、かつ、「背徳感ゆえの興奮」のために、国宝の鏡が持ち出された。

 ミリーの全身を映すには少し小さめではあったが、角度を細かく調整してまで、三種の神器が使われたのである。



 ここまでくるともうお分かりかと思うが、ネックレスは、首を絞めるチョーカーの代わりに、カシージョがよく使っていたものである。見た目は屈強なロウが実は繊細なプレイを好む一方、見た目は優男なカシージョはハードなプレイを好んだ。苦しむ表情を見るほど興奮し、さらに力が入ってしまう彼の首絞めによって、ミリーは何度か意識を失いかけている。


 3人の中で圧倒的にヤバイ奴がカシージョだった。



 私が前世の知識を使って撮影した写真にも、当然、三種の神器を使ったプレイの瞬間が写っていた。


 しかし、婚約破棄を言い渡された日には、私はこれらの写真をあえてアランには見せなかった。



 なぜなら、これらの写真は、責めているのが男性側であり、ミリーは受けている立場だからである。


 あのときの私の目的は、ミリーがとんでもないビッチだということを証明することである。


 ゆえに、私が必要としていたのは、どちらかといえば、ミリーの側から積極的に行為に及んでいるように見える写真であった。


 そのため、私は、わずかながらに存在した、普通に2人が抱き合う写真や、ミリーが男性陣に跨っている写真を厳選し、それだけをアランに示したのである。



 三種の神器を使ったプレイの写真は、当初の目的からすると、使えないボツ写真だったのだ。



 しかし、ミリーを暗殺することを決め、改めて写真を見返してみた私は、むしろこのボツ写真こそが有用であることに気付いた。



 アランは、婚約前のミリーの浮気については一切咎めない立場である。



 しかし、国家への冒涜については違う。


 晩餐の席で述べていたとおり、国家への冒涜は追放の対象なのである。



 ()()()使()()()S()M()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 お城からの追放では済まない。


 王国からも追放されるにふさわしい事由である。



 クシャル、ロウ、カシージョの3人は、異様なまでにお城での生活に執着している。


 ゆえに、三種の神器を使ったプレイの写真は、3人を脅すための材料として使えるのである。この写真をアランに見せて欲しくなければ、言うことを聞け、と。


 ちなみに、ミリーが3人の殿方を取っ替え引っ替えしてSMプレイに興じていたことは、アランだけでなく、他の男性陣にも知られていなかった。


 クシャルもロウもカシージョも、ミリーのことを「自分だけの奴隷」だと思い込んでいたのである。


 三種の神器を使った感じられた遊びも「2人だけの秘密」なのである。


 SMプレイで傷や痕が付けられてしまえば、他の男とのプレイのときにバレる可能性があるため、彼女はそこには細心の注意を払い、そもそもそういうプレイは避けるか、多少身体が傷付いたときも、必死で治療し、かつ、その傷が目立たなくなるまでは他の男には抱かれないようにしていた。

 

 あの女は、愚鈍ではあるが、そういう姑息な面ではちゃんとしていた。



 話を戻す。


 私が前世の知識を使って入手した、三種の神器を使ったプレイの写真は、3人を脅して言うことを聞かせるための格好の道具だった。



 とはいえ、彼らに、アランに写真を見せて欲しくなければミリーを殺せ、とまでは命じることはできないだろう。


 いくら弱みを握られているとはいえ、殺人までは絶対にしない。もしバレれば、お城や国からの追放では済まない罰が待っているのだ。



 アランに写真を見せて欲しくなければ、私の殺人を見逃せ、と命じるのもリスクが高い。


 倫理観ゆえにそもそも首を縦に振らない可能性もあるし、アランにチクられる可能性もある。

 アランも、ミリー殺害計画を密告をした功労者については、いくら三種の神器をおもちゃに使っていた前歴があっても、追放の罰は与えないだろう。



 ゆえに、私は、もっと上手く写真を使う必要があった。



 私が写真で脅すことで彼らに命じることは、犯罪ほどには大ごとであってはならない。



 また、私が殺人に関与していることは、彼らにも悟られないようにしなければならない。



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