アリバイの証人
男性陣3人が、アリバイ証言をできないことは、まさに私の計画通りである。
さて、私が一肌脱ぐ番だ。
彼らのアリバイを証言してあげられるのは、私だけなのだから。
「アラン、私たちは全員で、あなたとミリーが現れるのを待っていたわ。この披露宴会場でね」
アランが、訝しげに問う。
「マチルダ、それは本当か?」
「ええ。もちろん」
「午後5時から午後7時半までの間ずっとか?」
「ええ」
「その間、誰1人として披露宴会場を中座しなかったのか?」
「そうよ。新郎新婦がいつ現れるか分からないからね。私もクシャルもロウもカシージョも、お手洗いにも行かないで、ずっとあなたとミリーのことを待っていたわ」
男性陣3人は、私の発言に目を丸くしていた。
彼らは、いつも目の敵にしている悪役令嬢が、絶体絶命のピンチで自分をかばってくれるなど、夢にも思わなかったのだろう。
アランは、眉をひそめている。
私の証言が信じられないのだ。元婚約者だからといって、彼は私に全幅の信頼を置いているわけではない。むしろ、彼の中で犯人候補最有力が私であるに違いない。
「……マチルダ、本当なのか?」
「もちろん本当よ。私がいくらそう言っても信じてもらえないと思うけど」
アランは、私なんかよりもはるかに信頼している料理人の方を見た。
「クシャル、マチルダが今言ったことは本当か?」
今回の完全犯罪で、もっとも危険な綱渡りがこの場面である。
最善は尽くしたはずだ。私は祈る気持ちでクシャルの発言を待った。
ついに歓喜の瞬間が訪れた。
「……ああ。マチルダの言う通りだ。俺らはずっとこの場所でアランとミリーを待っていたとも。1時間半も中座した奴なんて誰もいない」
ロウとカシージョもクシャルに追従する。
「そうだな。新郎新婦がなかなか来なかったのは不審だったが、俺らには待つしかできないからな」
「マチルダとクシャルとロウの言う通り。僕らは誰1人としてトイレにも行ってないよ」
よっしゃ!! 勝った!! これで完全犯罪成立である。
私も含め、全員が披露宴会場にずっといた。
これは私にとって鉄壁のアリバイである。
証言するのが私のみだったらアランは信じなかっただろうが、信頼する仲間であるクシャル、ロウ、カシージョも同じ証言をしているのであれば、アランは信じざるを得ない。
別の角度から言えば、クシャル、ロウ、カシージョは日頃から私のことを疎んでいるので、私に有利な虚偽の証言をするはずがない。
そんな男性陣3人が口を揃えて、私にはアリバイがあると言っているのだから、それが虚偽であるはずがないのである。
アランの目が泳ぎはじめた。
三種の神器が現場に残されていることから、犯人はお城の関係者に違いないと考えられる一方、お城の4人全員にアリバイがあるのである。
この状況が意味するものは――
「アラン、あまりこういうことは言いたくないけど、ミリーを殺した犯人はアラン、あなたじゃないかしら? だって、あなただけアリバイがないんだから」
「……マチルダ、何言ってるんだ? 俺にはアリバイが……」
「控室で寝てた、ってだけでしょ? そんなの怪し過ぎるじゃない。あなたは披露宴会場にいつまでも現れなかった。その間に、ミリーを洞穴に連れていって殺すことがあなたにはできたはずよ。もちろん、三種の神器を持ち出すのだって、あなたには容易いはず」
「違う!! 俺はやってない!! 俺はミリーを心から愛してるんだ!! 俺がミリーを殺すわけないだろ!!」
王太子が目の色を変えて反論する。
私も、別にアランを犯人に仕立て上げたいわけではない。むしろ彼は私の大事な「結婚相手」なのである。何かの間違いで犯人になり、お城から追放されるようなことがあれば困る。
ゆえに、私が「アラン犯人説」を提示したのは、アランを追い詰めることによって、ある「円満解決」の道に持っていきたかったからである。
「私達にとってもミリーは大事な仲間よ!! 私達だってミリーを殺すわけがないでしょ!! クシャル、ロウ、カシージョ、そうでしょ?」
3人がうんうんと繰り返し頷く。
その様子を見て、アランは、私の狙いどおり、こう言い放った。
「分かったぞ!! ミリーを殺した犯人は俺達の中にはいない!! これは外部犯の仕業だ!! 内部犯に見せかけるための偽装工作として、お城とは関係のない誰かが、事前にお城に侵入して三種の神器を奪い、殺害現場に置いたんだ!! この事件についてはもう議論しない!! 以上!!」
次回から解決編です。解決編は筆が乗るので、更新ペースを上げて、明日中の完結を目指します(全5万字程度になる予定)。
果たしてマチルダはどのようにして完全犯罪を成し遂げたのか。
これまで6年以上ミステリーを書き続けていますが、今まで使ったことのない類のトリックを使っています。
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