命乞いする花嫁
洞穴の中は真っ暗であるため、何らかの光源が必要だった。
私は、お城から持ち込んだキャンドルのわずかな灯りを頼りに、手元を確認する。
同じくお城から持ってきたロープを握りしめると、それをゆっくりと、眠っているミリーの首にぐるりと1周巻く。
ロープの両端を持ち、手に思いっきり力を入れる。
首に圧力がかかった時、ミリーの目がカッと開いた。
びっくりした私は、思わずロープから手を離してしまう。
「マチルダ、何してるの!? 私を殺すつもり!?」
状況を把握したミリーは、すぐさま立ち上がり、この場から逃げ出そうとした。
――しかし、彼女は仰向けのまま、身体を動かすことはできなかった。
私が、事前に手足をロープで縛っていたからである。ミリーが目を覚まし、抵抗したときのための万が一の準備が功を奏した。
「マチルダ、こんなのオカシイよ!! 狂ってる!!」
「黙れ」
「そこまでしてアランと結婚したいの!? そこまでして金と権力に執着するの!?」
「あんたと一緒にするな」
「マチルダ、あんたは間違ってるわ!! こんなことしてタダで済むと思うな!! 絶対にバレて、刑務所行きだから!!」
しばらく身体をジタバタさせ、喚き散らしたミリーだが、このような抵抗の方法は無駄だと悟ったのか、しゅんとおとなしくなった。
そして、目に涙を溜めて、震えた声で言う。
「マチルダ様、今までごめんなさい。私は、マチルダ様の幸せを奪ってしまいました。マチルダ様が私のことを憎たらしく思うのは当然のことだと思います。私は罪深い女です。これから一生かけてこの罪を償わなければなりません。マチルダ様が幸せになれるよう、私も精一杯協力します」
ですから、とミリーは続ける。
「マチルダ様、どうか人の道を踏み外すのだけはやめてください。殺人はどんな事情があっても許されない行為です」
私は大きく首を振る。
「いいえ。許されるわ」
「どうして?」
「私は悪役令嬢だから」
私はロープを再び握り直すと、迷いなくミリーの首を締めあげた。




