死への運搬
披露宴会場も、挙式を行った教会同様、この世のものとは思えないほどに豪華なものだった。
テニスコートが10面以上入りそうな広大なホール。テーブルには、キャビアやフォアグラなどが贅沢に使われたクシャル渾身の料理が並んでいる。
新郎新婦含めて6人しかいないというのに、あまりにも大それている。
加えて、この披露宴会場は決して使われることはないのに。
私は、ホールに置かれた巨大な振り子時計に目を移す。
披露宴のスタート予定時刻を30分以上過ぎている。
しかし、この広い披露宴会場にいるのは、私だけである。
それは、私の計画が上手くいっていることの何よりの証左だった。
披露宴会場の隅には配膳用のカートが並べて置かれている。
私は、そのうちの1台を引っ張り出す。
そして、ガラガラとカートを押したまま、長い廊下を進んでいく。
新婦控室の前に立った私は、念のため、ドアをノックする。
何も反応はない。
さらに強くドアを叩いてみたものの、やはり何の反応もない。
私は、ゆっくりとドアを開く。
控室のちょうど中央に、ウェディングドレス姿のまま、うつ伏せに倒れるミリーがいた。
思った以上に、薬はよく効いたようだ。
私は、新婦控室に用意されていた飲水に、事前に、睡眠薬を混ぜておいたのだ。
私の部屋の本棚には、毒薬の作り方の本がある。今回使った睡眠薬は、その本に書かれていたレシピのうちの1つである。即効性があり、強力な睡眠薬であると本には書かれていたが、まさにそのとおりだったみたいだ。
同じく睡眠薬入りの水を、新婦控室の隣にある新郎控室にも置いておいた。
ゆえに、今頃アランも同様に死んだように寝ていることだろう。
私は、寝息を立てるミリーの身体を何とかして持ち上げると、配膳用カートの上に乗せた。
少し心配していたが、小柄なミリーはカートにすっぽり収まった。
私はずっしりと重くなったカートを押し、長い廊下を引き返す。
そして、披露宴会場を経由せず、建物の外に出た。
何とも清々しい夕晴れの空である。
大理石の歩道を抜け、綺麗に短く切り揃えられた芝生の上を通っていく。凹凸がほとんどなく、カートの揺れが少なかったことは救いだった。
花嫁は一切目を覚ます気配がない。
私は、海岸線に向けて、真っ直ぐにカートを進めていく。
目指すのは、海岸沿いにある狭い洞穴である。
「ドキゆらキャンドルナイト」のゲーム内において、披露宴を終えた後に、新郎新婦が訪れ、キャンドルの火の下、これまでのことやこれからのことについてあれこれ語らう場所として用意されている洞穴だ。
私は、これからこの洞穴でヒロインを葬るのである。
吹き込む潮風によってジメジメとした、漆黒の闇の中こそが、あの女の墓場には相応しい。




