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屈辱の晩餐

 お城における私の立場は、元々、あまり良いものではなかった。


 クシャル、ロウ、カシージョの3人は、私のことを露骨に嫌っており、爪弾きにしようとしていた。

 食事の際に私が同席することにすら、「飯が不味くなる」と言って、反対していたほどである。



 そんな中、唯一私をフォローしてくれていたのがアランだった。

 私と婚約し、お城に引き連れてきたのが彼なのである。その責任もあり、アランは、私を擁護し続けてくれていた。



 ゆえに婚約が破棄されたことは、最後の砦すらも崩壊したことを意味する。


 

 クシャル、ロウ、カシージョの私の責め立て方は、まさしく水を得た魚だった。



「マチルダ、いつまでこの城に居座り続けるつもりなのか?」


 みんなで夕飯を囲む席で、ロウが毅然とした態度で言う。



「もう婚約破棄されたんだから、この城には用はないだろ?」


 私は、あたかもロウの声が聞こえていないかのように、ひたむきにフォークとナイフを動かす。



「おい。マチルダ、シカトするのか?」


 何かを言い返したい気持ちは山々なのだが、何も返す言葉がないのだから、無視するしかなかった。



「マチルダ、いつまで僕に君の分の料理を作らせる気だい? もううんざりなんだが」


「おい。クシャル、ロウ、それくらいにしておけ」


 婚約破棄を選択した張本人が、私をかばう。



「マチルダは当然、この城にいて良い人物だ」


「アランの尻拭いってわけか」


「違う」


 クシャルとアランが互いに睨み合う。


 私としても、今お城に置いてもらっている理由を強いてあげるとすれば、一旦は婚約し、お城に連れてきてしまったことの王太子の落とし前なのだと思う。


 要するに尻拭いだ。



「アラン、このままマチルダをお城に住まわせるのは、マチルダにとっても良くないんじゃないか?」


「カシージョ、どういう意味だ?」


「だって、アランに婚約を破棄されたんだから、マチルダは、いずれ別の誰かと結婚しなきゃいけないだろ? 女なんだから」


 ジェンダー的に際どい発言である。現代の日本においてこのような発言をすれば、セクハラと断罪されかねないだろう。

 もっとも、このゲームの設定である中世ヨーロッパにおいては、それなりに説得力のある議論だった。



「それもそうだが……」


 アランが口籠る。



「だから、このお城から追放してあげるのが、マチルダのためにもなるんだ。アランが妙な責任を感じる必要はないよ」



 クシャルもロウもカシージョも、私をこの城から追放したがっている。


 とはいえ、彼らも私と同じ「居候」である。彼らが、私を追放するかどうかの判断権を有しているわけではない。


 私をお城から追放する権限を有しているのは、アランだけなのである。



「言っておくが、俺は、一度この城に招き入れた者に関しては、このお城のルールに反しない限り、追放するつもりはない。」


 このお城のルールとは何だろうか。



 私がそれを訊く前に、ロウが、


「ルールとは何のことだ?」


とアランに尋ねた。



「それはいくつもあるけど、追放に値するほどのルール違反は……そうだな。たとえば、犯罪を犯すこと」


 それから、とアランは続ける。



「国家に対する冒涜をすることだな」



 国家に対する冒涜――どういう場合がそれに当たるのだろうか。


 先ほどから男性陣がアランに噛みついているが、気にする素振りを見せていないことからすると、王太子であるアランの悪口を言う、という程度のことではなさそうである。



 もしも、ミリーが城のルールを破った場合、アランはミリーを城から追放するだろうか。



――甚だ怪しい。



 アランは、ミリーに対してはどこまでも盲目なのである。


 城の男性陣に抱かれている写真を見せても、なおミリーへの愛情が冷めていないのである。仮にミリーが罪を犯したり、国家を冒涜したりしたとしても、アランはミリーをかばい、追放しないものと思われる。


 万が一ミリーを追放せざるを得なくなったとしても、「俺も一緒に城を離れる」とか無茶苦茶なことを言いそうである。



 とすると、何らかの手段を使い、ミリーに城のルールを破らせるというのは、作戦として成立しない。



「みなさん、お食事中に、追放とか、そういう物騒なことを言うのはやめましょうよ」


 ミリーが、お城の男性陣を諌める。


 そもそも、この殺伐とした雰囲気を作った大元の原因は彼女にあるというのに、平和主義者を装うとは大した玉である。



「私はいつまでもみなさんと一緒にこのお城で暮らしたいです。誰も追放されて欲しくないです」


 やはりこの女は上玉だ。自らが関係を持った穴兄弟達と、これから先もずっと一緒に暮らそうというのである。まさに魔性の女である。


 そういえば、男性陣の方は、それで良いのだろうか。


 彼らはいずれもミリーを溺愛しており、彼女と結婚したがっていたはずだ。


 それがいとも簡単に王太子との結婚を認め、「取り巻き」として結婚式にも参加し、お城での共同生活を続けるということで良いのか。それは彼らにとっては屈辱ではないのか。


 どうやら彼らがお城での生活を継続することは既定路線のようだ。

 ゆえに、私をお城から追放するように王太子に進言しているのである。


 彼らはなぜそこまでしてお城での生活に執着するのか。乙女ゲームのサブキャラなんて所詮そういうものだ、と言われればそうなのかもしれないが、彼らの中に嫉妬心が芽生えないはずもないと思うので、私は不思議に思った。


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