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6話 純粋

    「何か大事な事を忘れているような…。」


   タケシは街を当てもなく彷徨っていた。


夫人に鉄パイを渡してすぐに、「人を切りたい」という欲求は無くなったタケシだったが、呪いの影響で猪狩りのクエストを受けていたことをすっかり忘れてしまっていた。


のびやかな感性を持つタケシはすぐに気付く。


「これはストレスからくる病だ」と。


発達した文明は、人々から人情を奪い去っていった。

文明の発達したこの世界は、人情の世界を生きてきたタケシにとって、毒でしかなかったのだ…。


「この病を治さなきゃ、俺は前には進めねぇんだ!」


タケシはそう吼えて。気合いを入れると昔聞いたことのある話しをふと思い出す。


ハチやクラゲの毒には人間の小便をかけると良いと。

簡単に言えば毒には小便が効くということだ。

それはつまり、この世界という毒に侵されたタケシには

小便が何よりの特効薬という事を意味する。


タケシは街の大通りまで猛然と走り、道行く人々にこう叫ぶ。


「どなたか、私にお聖水をかけてくださいませんか!」

「お願い致します!私にお聖水をかけてくださいませ!」


タケシは道徳心の塊の様な男だ。間違っても人に「小便をかけてくれ!」などと言うモラルの無い人間ではない。


ゆえに「お聖水をかけてくれ!」と言っているのだ。

これならキレイな印象さえ抱く。


「どなたかお聖水を!」

「どなたか!」

「どなたか………。」


タケシは気付いてしまったのだ。皆がタケシを狂人を見るような目で見ていると…。

この世の中で、タケシにお聖水をかけてくれる人間などいないのだと…。


きっと街の人々の目には、「小便をかけてくれ!」だの「お聖水をかけてくれ!」だのとのたうつタケシはさぞ汚く見えただろう。


しかしタケシは純粋に病を治そうと。

これからも生きて行く為に必死で声を張り上げたのだ。

そこに悪意など一欠片も無かったのだ。



 お聖水が本当に必要だったのはタケシではなく街の人々なのかもしれない。




        雪の降る寒い朝だった。


       人気の無い大通りには一人の

       いなせな男が冷たくなり、

       横たわっているのだった。







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