【真実の愛】
タケシは霊魂となり街を彷徨っていた。
タケシは【ストレス】という毒に侵され死んだのだ…。
「まてよ…。」
タケシはふと昔聞いた事のある話しを思い出した。
クラゲやハチに刺された時は人間の小便をかけると良いと。
それはつまり毒は、小便をかけると治る事を意味する。
そこから導き出される答えは。ストレスという現代の毒で死んだタケシに小便をかければ、生き返る事が出来るという事だ!!
「これだ!」
タケシは街の大通りに向かって猛然と走り出し、到着するやいなや街の人に大声で呼びかける!
「どなた様か、私にお聖水をかけて下さいませっ!」
「どなた様か、お聖水をお分け下さいませっ!」
幽霊になり色々な物を失ったタケシだったが。道徳心だけは今もなおタケシの心に残っていた。なればこそタケシは
「小便をかけてくれっ!」とは言わず。綺麗な感じのする、
「お聖水をかけてくれっ!」に言い換えたのだ。
「どなたかお聖水をかけて下さいませっ!」
「どなたか!」
「どなたか…」
街の人はタケシを、まるでゴミを見る様な目でみている。
(あの時と同じだ)
やはり自分に、お聖水をかけてくれる人間などいないのだ……。
絶望し、全てを諦めかけたその時だった。タケシに一筋の光明が射す!
「【スキル使い放題】この力で、俺は運命を覆す!!」
「はぁ!スキル【鉄パイプ】生成!!」
タケシは、手のひらに魔力を集め鉄パイを生成すると。
鉄パイをまるでギターの様にかき鳴らす!
鉄パイの奏でる美しい調べに乗せ、タケシは歌を唄う。
愛の唄を!
他者との関わりが薄くなった現代。人々は愛の持つ力を段々と忘れていってしまった。
「俺がこの歌で思い出させてやる!真実の愛をっっっ!!」
タケシの神がかった鉄パイの演奏テクニックと、カブトムシの鳴き声を彷彿とさせるその美しい歌声は、愛を忘れた街の人々の心に、【真実の愛】を届けたのであった。
タケシの演奏に足を止め、耳を澄ませていた人々は、タケシに向け万雷の拍手を送る。
街の人々はタケシに「感動した!」「真実の愛を知った!」
と口々に賛辞の言葉を投げかける。
タケシの前に置いてある鉄パイケースに我先に、とお金を入れていく人々を見て、タケシは声を張り上げる。
「皆さま!本日は私の演奏会にお越し頂きまして、誠に有難うございます!」
「つきましては皆様にお願いがあるのでございます!」
「私にお聖水をおかけ下さいませっ!」
その瞬間。先程まで鳴り止まなかった拍手の音はピタリと
止まり、場を静寂が包み込む。
尊敬と羨望の眼差しでタケシを見ていた街の人々の目は、いつの間にか、まるで狂人を見る様な目に変わっていた。
タケシはその目を見て悟る。真実の愛は敗北したのだと。
そもそも真実の愛とはなんだったのか?それは誰にも。もちろんタケシにも分からなかった。
雪の降る寒い朝だった。
街の大通りでは
一人のいなせな男が
冷たくなり
横たわっているのであった。