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45.石版

黒い池からどんどんと溢れ出す異形、とにかくあれをどうにかしなくては。


『アレックス補佐っ!池を干上がらせろっ!』


エバンズが、声高に叫んだ。



はぁ??え〜、俺??

あれ干上がらせるって、深淵魔法何発?

しかも何が効くんだ?黒いぞ?

蒸発するか??

汚泥は、燃えないぞ。

あれが、タールとかならまだわかるが.....。



『アレ〜ックスっ!!やれっ!』


「...エバンズ団長っ!

あれ、燃えますかね? 成分なんでしょう?

異形の表面と同じヘドロなら燃えないと思います!」


『とりあえず、やってみろ!初めて見るものなんだっ。何かが効くだろう!?』


えーーーーー。

何かが効くって?

俺ばっかり、魔術使いすぎ....。

すでに、防御壁も擬似太陽も維持してんのにぃ。

過労死するんじゃね?なんて、理不尽なんだっ!

俺は社畜じゃねぇぞっ。俺のスローなライフはどこいった!?


だが、長いものには巻かれる精神が根本にあるヘタレな俺は、承諾するしかなかった。


「はっ!....了解しましたぁぁぁ。」

がっくりと項垂れながら、気のない返事をした。


干上がらせるのね....、まずは1発試してみよう。

池っぽいから、火魔法かな?

閉鎖空間で燃焼は、空気が無くなる危険もあるから....まずは風魔法で空気の道を作って....


『風魔法 換気ブリーズ』


よしっ、これで外の空気を中に引き込めたな。

じゃあ、いっちょやるか。


「ジョッシュ!!フォロー頼む!

同時にいくつも魔術使ってるから、今から俺は変異種には対応出来ないっ。襲ってきたら、時間を稼いでくれ!

行くぞ!」


「わかりましたっ!」と返事をしたジョッシュは、即座に側に控えた。


アレックスは、黒池をキッと見据えて呪文を紡ぐ。

『深淵魔法、憤怒のグラヌス(炎の神) インフェルノ!』


呪文を唱えると、擬似太陽光で明るかった洞窟の内部が、フッと影った。

反対に、黒池全てを覆う魔法陣が輝き幻想的だ。


池から赤いマグマがボコボコと噴き出し、やがて槍の形を取ると池を覆うように何千本もの槍が降り注いだ。

すると刺さったところから、何千もの火柱が天井に向かってゴォォォっと立ち上がり、辺りは熱風に包まれたのだった。


「うおっ!なんだありゃ!」

「アレックス!規模がおかしいぞ。俺たちが、先に丸焼けになるぞっ!」

「暑っ!!」

「バケモンかっ、まだ魔力そんなにあるのか!?」

「.....狂ってる....。」

「わぁお☆久しぶりに見たよ、デーハー(派手)♪」


口々に、なんやらかんやらいう一行。

最後のバブリー業界用語セリフは、勿論ネフィだ。


とりあえず、池を蒸発させようとしたが、なんとなく汚泥感が増しちゃったような...、変わって無いような?

劇的変化は見られなかった。


「団長っ!無理でした。燃えませ〜ん。」


『なら、とりあえず他にも何か試せっ。』


えーー、指示くださいよ....。

責任とってくれる?どうにか出来なくても....。

はぁ、次は池を凍らせてみるか...。


アレックスは、再び魔法陣を広げて池を全て覆い、パチンと指を鳴らした。


『深淵魔法 嘆きのヘルニダルク(氷の女神) コキュートス!』


再び暗くなり、ヒヤリとした空気が漂う。

今度は熱帯地帯から一気に極寒地帯へと変化する。

いっそう魔法陣が輝きだすと、眩い閃光が上にドーーンっと突き抜け、ダイヤモンドダストがきらきらと煌めいた。


すると、ピシリ、ピシリと黒い汚泥に霜がおりるや否や、分厚い氷がパッキーンと池に張った。



「うおっ!今度は、なんだありゃ!」

「アレックス!規模がおかしいぞ。俺たちが、先に凍傷になるぞっ!」

「寒っ!!」

「バケモンかっ、まだ魔力あったのか!?」

「.....狂ってる....。」

「わぁお☆コキュートス、久しぶりに見たよ。デーハー♪」


さっきとほとんど言われることが変わらない。

俺頑張ってるのに、....褒めて......。グスン。


とりあえず、上から分厚い氷が覆ったので異形の発生が止まった。


『よくやった!!総員、大急ぎで残りの異形の浄化を終わらせるぞ!』


あちこちから浄化の光が立ち登り、どんどんと残存している異形が消滅していく。

おおよそ1刻ほどで洞窟の中がスッキリした。


ただ、この洞窟に入ってから変異種が出てこなかったことがいやに不気味だ。


「よしっ、氷が溶ける前にこの池をどうにかするっ!魔力が余ってるもの、浄化をしてみてくれ。誰かいないか?」


えー、団長がすればいいじゃん?

まだ、顔色悪く無いよ?

他力本願、部下に仕事押し付けないでよ〜。


「では、私が。」

デイビットが手を挙げた。


背筋を伸ばして、キビキビと池に近づいてく。

ネフィが学園時代鍛えたおかげで、魔術師にしては健康的で貴族的な優雅さもあり、男の俺から見ても結婚市場の優秀物件なんだろうな、とふと思った。

あー、俺今世は結婚できるだろうか....。

穏やかで、癒される奥さんがほしい....。


こんなどうでもいいことを頭の片隅で考えていた間にデイビットは祝詞を寿ぎ終えていた。


結果、浄化の光が当たったところだけ、黒い汚泥が消滅し、分厚い氷で覆われた普通の地面が残った。

汚泥には浄化の光が適してるようだ。


「うむ、アレックス補佐。この湖並みにでかい黒池を一気に浄化しろ。」


えー、またぁ。

マリーナさんでも良くねぇ?あっちも結構な範囲の浄化出来るぞ。

俺、第10騎士団じゃねぇのに、こき使われすぎじゃねぇ?直属の部下を使えよぉ。

はぁぁ.....。神さまぁ、俺に威厳をください!

畏れ多くて、命令出来ないような雰囲気プリーズっ!!


ヘタレな俺は、結局やるんだけどな....。


「はっ!(ちっ...。)」

内心、舌打ちしながら了承した。



ふぅーーーーーー、はぁーーーーーーー。


深呼吸をして、心を落ち着かせ祝詞を寿ぐ。


 『天上に居ります数多の神々よ、

  我が名は、アレックス。

  諸々(もろもろ)禍事罪(まがごとつみ)

  穢有(けがれあ)らむをば祓へ(はらい)(たま)

  (きよ)め給へと(もう)す事を

  ()こし食え(めせ)(かしこ)(かしこ)みも(もう)す』


ブワァァァァと光が爆発的に膨れ上がり、瞬く間に洞窟中に目が眩むほどの光が満たされ、やがて光が収束し目を開けると、分厚い氷だけが残っていた。


「うむ、大義であった。では、総員氷の下に変わったものがないか端から端まで隈なく探索!!」


エバンズの新たな命令により、騎士たちは氷の上を慎重に歩き始めた。

やがて、黒く光る水晶が4つに、赤いインクで文字らしきものが書いてある石版を見つけた。


石版の文字は、見たことのないものだった。


「うーーむ、見たことがない文字だ....。

誰かっ、知っているものはいないか?

貴族出身のもの、近隣諸国の言葉を網羅しているものはいないだろうか?」


「各国の魔術書も読めますが、この文字は見たことがありませんね。」

「平民には、自国の文字も読めないのでお役に立てません。」

「学園の騎士科出身にも無理でしょうね。語学の授業が無かったですし、必要性がないので。」


各々が見ては断念して後ろに下がる。


「マリーナなら読めるんじゃない?ほら、前に行って見ておいでよ。」

「は?なぜ、わたくしが読めると??」

「だって、マリーナ、商家のお嬢じゃん?いろんな国の受注書やら契約書読むでしょ?」

「それは読めますが.....。わかりました。見てきましょう。」


ネフィが促し、マリーナが石版に近づく。

集まっていた人が割れ、期待に満ちた目でマリーナに注目する。


マリーナが、石版を覗き込んだ。

眉間に皺がぎゅっと寄ると、ふるふると首をふりながら「わかりません。見たことがないです。」と、一言呟き悔しそうに後ろに下がる。


すると今度は逆にネフィに提案した。

「そういえば、ネフェルティ・ヴァンキュレイト?

貴方、確か王子妃教育を受けてましたわよね。

世界中の文字を習ってるでしょう。

貴方こそ、見てきたら?」

「確かに、そうだな。ネフィ見てこいよ。

宝の持ち腐れな知識を披露してこいよ。」

「うーん、私真面目に受けてなかったから、周辺国の文字も習得してないよ?...まぁ、見るだけ見てくるよ。」


今度は、ネフィが石版の前に立った。


すると、一部分だが読めてしまった。

「私の名は、ヴェルディエント・ジョナ・ガルデンハイト?

私は、悪魔、いや閻魔?ここに、ここで?毒?.....と言う?世界、攻撃、私のもの?恐ろしい?

うん?この単語なんだっけ?

見たことあるけど、意味がわからない。」


「うぉぉっ!すごいな!

読めるのかっ!?どこの言葉だ?」

周りは、歓喜の声を上げた。


「えーーーと....。めっちゃ遠い国?」

ちらっと、困惑顔のネフィがアレックスの方を窺うように見た。


(ん??)

目線に気づいたので、ネフィを注意深く観察するアレックス。


(アレク!アレク!ちょっと来てよっ!)

パチン、パチンと片目を瞑って何かを訴えるネフィ。


(はっ?なんだ?何か訴えられてるけど、何かわかんねぇ。)

両手を上げて、お手上げポーズをするアレックス。


(わかんないじゃなぁ〜いっ!いいから来てよっ!!)

顎を僅かにしゃくってサインを送るネフィ。


(ん?ツラ貸せ??なんだよ、俺はこの国の言葉しかわかんねぇ平民だぞ....。行くだけ無駄だろう?休ませろよ。)

ブンブンと首を振ってダラリとするアレックス。


(何、休んでんの?!つべこべ言わず、来ぉぉいっ!)

クワっと目を見開いて、ギョロリと睨むネフィ。


僅かな動きと目線で会話をしていた2人だったが、やっぱりアレックスが折れた。

所詮は、一生の下僕である。


アレックスは、石版に近づいてとりあえず見てみた。

(どうせ、見たってわかんねぇよ...。どれどれ...。

はぁぁぁっ!!なんでこの文字が書いてあんだよっ!)


ギュンっと顔を上げてネフィの方を向いた。

「ネフィっ!これって!!」


ネフィは、だよねぇというように困り顔で頷いた。


だって、これ地球の文字じゃぁぁぁんっ!!





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