サラリーマン
なんで、あのバスに乗ってしまったんだろう。
この奥深い森の中で、男は繰り返し考える。
たまたま後輩と食事した帰りにバスに乗った。
何事もなく明日も会社に行って仕事をしている筈なのに、なんで俺は森の中、体を半分埋められてるんだ。
上半身だけ地面から出てる、周りの土を掘ろうとしてもセメントかと思うくらい硬い。
あの時、後輩との食事を終えて気分良くバスに乗ったまでは良かったのに。
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『え?須藤さんですか?あの日は無理やり食事に連れてかれて仕事の愚痴と俺に嫌味いっぱい言ってスッキリして帰っていきましたよ。
え?勿論割り勘ですよ、奢ってもらったらこの先も奢ってやったからとか言いそうですもん、あの人』
『え?須藤?あいつ子供の頃からヤバかったぜ?
なんか知らないけど猫とか犬とか見ると棒で殴り倒してたもんな、失踪?まあしてもおかしくないと思うよ』
『須藤君ですか?うーんあまり仕事が出来る方じゃなかったですよ、というより自己解釈が強くて失敗の方が多かっから正直使いにくかったですね
悩み?彼に限って無いと思いますよ、いや彼にとって失敗したら最初にきちんと教えなかった上司のせいだって事で、都合の悪い事は全部他人のせいですからね』
須藤理勇が失踪して1か月、バスの運転手を含め8名が失踪した。
失踪した家族がツイッターやSNSで情報を求めていると、マスコミが嗅ぎつけて集団失踪事件として取り上げられ、それからは酷いものだった。
失踪した人間の普段の生活や交友関係、勝手にフェイスブックからの私生活の暴露、被害者の筈が歪んだ報道がどんどん流れて根も葉もない噂が溢れた。
特に須藤理勇とパート主婦の佐々木勝絵はそれは酷かった。取材で暴露された須藤の所業は、動物虐待、逆恨みした人間の自宅まわりに小動物を殺して撒き散らす。
最近ではハンマーを購入していたと情報もあった。
一方、佐々木勝絵は大物詐欺師で被害者が全国にいた。
失踪2ヶ月目に50歳パート勤務の主婦、佐々木勝絵が死体で見つかった。
マスコミは、犯人は失踪した中にいるとセンセーショナルな見出しで視聴率を取り合っていた。
家族は心無い誹謗中傷にあい、ひっそりと身を隠した。
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何か闇の中から化け物に捕らえられて、グチャグチャに噛まれて、噛まれる度に他人にしてきた記憶が蘇った。酷い苦痛と一緒に体からドロドロした物が溶け出して、もうこれ以上何も出ないってなった時、俺はあの化け物から排泄物として外に出た、ご丁寧に埋めていきやがって。
あれからどのくらい経ったのか、自分はまだ人間なのか、生き物なのか境が曖昧になってきた頃それは来た。
「おやまあ、新しいのが植わってるわ」
「何年ぶりかな」
「滅多に無いものね」
「お姉ちゃんこれ引っこ抜く?」
「馬鹿言わないの、地面から出てる処だけ切り取るのよ、そうすればまた来年同じように生えて来るんだから」
「凄い!お得だね!」
「あら、雄株だわ」
「オスメスあるんだ!」
「そうよー雌と合わせると子供が取れるの」
「うわ、美味しそう!」
「雌株は滅多に見つからないからねぇ、まあ仕方ないか」
頭にびっしり目玉がついて顎には小さな口がひとつチロリと出した舌の先は蛇のように細くて先が割れていた、何十メートルもある巨大な姉妹の影が俺に伸びて…。
ザクリッ
「場所覚えておきましょうか、また来年こようね」
「はーい!お姉ちゃん」
俺は激痛の中、ぽいっと大きなカゴに投げ入れられた。俺は来年も生えてくるのか?いつまで?
誰か助けてくれ!
俺の意識はゆっくりと闇の中にグルグルと溶けていった。
ふと、気がつくと俺が生えている。
頭が完全に生え終わると意識が戻るのか。
目線にあの硬い地面があった。
嫌だ!嫌だ!嫌だ!
また殺されるのは嫌だ!
またこの場所で死を待つのは嫌だ!
助けてくれ!!
誰か…誰か助けて。