女子高校生
朝、一緒に登校してたサエちゃんは、昨日から機嫌が悪くて正直疲れる。
私が無神経なのか自分ではわからないけど、話し掛けてもうんとかあっそうとか冷たくされる。
そんな時は腫れ物を触るみたいに接して、機嫌が直るのを数日待つと突然コロッと機嫌が良くなる。
察してちゃんなのか、サエちゃんの下僕だと思われてるのかは知らないけど、『私、いま機嫌悪いの』アピールされても困る。
友達だから何しても良いわけでもないし、何があったのかは知らないけど、八つ当たりのように感情をぶつけられても不愉快なだけだ。
私には何してもいいって甘えてるのかな。
クラスの子みてると、大体3人くらいでつるんで仲間内で軽いハブしてる。
私?なんだろ一歩引いてるからか、ハブられた子がくる避難所ぽくなってた。
誰とでも仲はいいけど、誰とも特別じゃない。
今日は叔母さんのお見舞いの帰りだ。
うちのお母さんと叔母さんは仲が悪い、でも私は叔母さんのほうが好きだ。お母さんには言えないけど。
うちのお母さんってちょっとおかしいんじゃないかなって思う時がある、親にとって子供がいつまでも子供なのは変わらない事実だけど、お母さんは自分にとって都合がいいなら子供で悪かったらそれ以下。
思う通りにならないと急に金切り声をあげて延々騒ぐから、いつの間にか顔色をうかがうのが普通になった。
こうやって叔母さんに会えるのもあと少しだと思うと胸が苦しくなる。
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バスの中であのサラリーマンが怒鳴って苛ついたけど、下を向いてたら過ぎ去るだろうなって思った。
なんかヒステリーなのがお母さんと似てたから。
最後に目を覚ましたお姉さんが、あの親子に声を掛けた時ホッとした。
でも、直ぐに後悔する事になった。
あんな恐ろしいモノを見るくらいなら、一緒に降りれば良かった。
それは、バスの中でまだサラリーマンが騒いでいた時に起こった。
生臭い風が吹いたと思ったら、電気が消えてアレがきた。
ズルリ…闇の中から恐ろしいモノが出てきた、暗くて視えない筈なのに、テラテラと黒く光ヌメヌメの肌ボコボコに膨れ上がった人の頭程もあるイボ。
それは唐突に口を開け舌をベロリと出すと一瞬で全員を巻き付け飲み込んだ。
飲み込まれグチャグチャと粘液に混ぜ合わせれると、あり得ないんだけど気持ちがスッキリした。
突然、味が無くなったガムみたいにペッて外に吐き出されていた。私だけじゃない、中学生の男の子もいた。
私はめちゃくちゃ混乱してるのに、長谷川君は冷静で的確で合理的でまるで大人だった。
色々と知ってて、何でそんなに詳しいのか聞いたら、教えてくれたのは昔に召喚されたって事。
正直、長谷川君が居なかったら、あの森で死んでたと思う。だから正直に長谷川君が召喚されたのは、私の命を助けてくれた事に繫がったんだね、ありがとうって言ったら少しだけ笑ってくれた。
長谷川君は、勇者で召喚されてたのに、魔王を倒したら呪いで魔王になっちゃったんだって。
召喚したなら元の世界へ戻してしまえば呪いを異世界へ押し付ける事が出来ると、それはそれは喜んで無理やりに帰還させたんだって。
もうこっちに家族も居たのに。
「長谷川君、これからどうするの?」
「家族を探すよ」
「そっか、見つかるといいね。それと街までありがとう」
「気にすんな、こっちもあんたのステータスにも助けられたから」
私のステータスは聖女だった。
「ねぇ、長谷川君私も一緒に探すの手伝ったら駄目かな?」
「は?」
「あ、いや長谷川君の家族が見つかったら、その時は私も街のギルドにいくよ?でもほら私のステータス役に立つと思うし!」
「…ごめんな、気持ち嬉しいけど、あんたのそれは吊橋効果や刷り込みみたいな感情だ」
「そ、そんなんじゃなくて!」
「それに家族見つけたらやる事あるんだ、だからあんたはこの街でしっかり生きてて欲しい」
「…分った、最後までありがとう長谷川君」
「おう、またな凛々子」
「ま、またね太良君」
そう言うと太良君は風の様に書き消えてしまった。
私は涙を服の袖で拭いて、上を向きギルドの扉を開け、この異世界の一歩を踏み出した。
数ヵ月後、ある王国が滅んだと話が聞こえてきた。
人伝手だから遅くなったけど、多分私と別れて直ぐに王国は滅んだみたい。
太良君、最初からそのつもりだったんだろうな。
ひと昔前の勇者の話は有名だった。
誰でも知ってるお話で、異世界から来た勇者は魔王を打ち滅ぼしたが、闇に囚われ魔王に落ちたのを勇者を呼んだ王国の王が異世界へ返し封印したそうだ、と。
勇者の妻と子供もその後一緒に異世界へ送られたという。
きっと、王国を滅ぼした後、太良君は奥さんと子供を探しに行ったんだろうなあ。
淡い初恋。
祈る事しか出来ないけど、幸せになって欲しい。




