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長谷川太良


 学校で流行ってる噂があった。


『○曜日の20時33分のバスに乗ると異世界へ行ってしまう』


 長谷川乗ってこいよ。

 お前また異世界行ってこいよ。

 異世界いーけ!いーけ!ぎゃはははは。


 俺は子供の頃、1ヶ月行方不明になった事がある。

 夏休み爺ちゃんの家から忽然と消えて、1ヶ月後に隣県の国道を歩いているところを保護された。

 行方不明の時の事はなんにも覚えてなくて、両親はそのせいで離婚して、俺はそれから爺ちゃんに育てられた。

 中学にはその事を覚えていた奴がいた。

 行方不明から戻って来た時に、色々と注目されていたのを面白くなかったのか、やたら突っかかってきてうざい。


 その爺ちゃんが昨日亡くなった。

 通夜で久しぶりに親父に会った、顔は爺ちゃんとそっくりだけど性格は真逆だ。

 通夜の最中に親父が廊下で、親父と新しい奥さんと異母妹がいる家で一緒に暮らす事に決まったからと言われた。


 いや、別にひとりでいいし、隣の竹さんとか裏の加藤さんとか気にかけてくれるからと言ったら、世間体が悪いと言われた。

 いや、親父と母親が勝手に別れて、後は爺ちゃんに俺を押し付けておいて、お前が世間体っていうわけ?本当に今更だろうと呆れたがなんか面倒くさくなったから言うのやめた。


 明日は葬式、なんとなく学校の噂を思いだして少ない荷物まとめてバス停に立っていた。

 異世界なんて信じて無いけど、なんか親父の言うとおりするのは癪だっただけだ。バスで知らない終点まで行って海があったら海を見て、山があったら山をみてそれで帰って来ようと思った。


 まさかな、本当に異世界来るとは思ってなかったよ。


 バスに溢れた光が頭の中に刺さってグチャグチャにかき回されて、行方不明だった時の記憶を思い出した。

 1か月?いやいや俺はこっちで20年は生きてたっけ。勝手に呼ばれてあいつらの都合で勝手に返された、時間を巻き戻すなら呼んだその日にしてもらいたかった、そうしたら俺の両親も離婚なんてしなかったかもしれない。

 あ、でもそうしたら爺ちゃんと暮らせなかったか。そう、考えるとなんか微妙。


 さてと。


『ステータス』


 どうやら俺の20年間の経験値や称号はきちんと引き継がれていた。


『ストレージオープン』


 思った通り家を出たときに持っていた手荷物もこの中に入ってた。

 こっちで貯めていた金や薬とアイツらが欲しがっていた希少な素材もそっくりそのままあった。


 なんとなく、もう帰れないだろうなと思った。

 帰る理由も居場所も向こうにない。

 俺はあの世界でひとりになって、漸くこの世界に戻ってきた。それに、記憶を思い出した俺にはやる事がある。


 俺達を喰ったコイツは闇モドキだ。

 姿は、オオサンショウウオが何十倍も醜悪になった奴だと思えば正解。コイツの好物は魂、唯の魂じゃない汚れて腐ってる人間の闇が大好きなレアモンスターだ。

 罪人は震え上がるが、遭遇するのは一生に1度あればいいほうで、よく子供の躾に使われてる、殆ど伝説だと思われているくらいのレアだ。


 罪人を好んで食べるので、とある国では飼育出来ないかと実験したそうだが、闇の中を自由に動き回れる為、その国の王様が喰われて飼育の話はなくなったそうだ。

 考えた奴、よっぽど王様恨んでたんだろうな。

 

 さて、人間は大なり小なり罪をおかして生きてる訳で、たいした罪を持ってないとどうなるかと言うと、心の負の感情をオヤツがわりに喰われて外に吐き出される。

 そ、俺と女子高校生が今正に外に出された。


「うっおおおえええええっ」

「くっさい!何これ、ヌルヌルする!おえっ」


 吐き出し異物が無くなって満足したのか、闇モドキは闇の中へ消えていった。後の2人は極悪人かあ。


「君大丈夫?うおぇっ」

「大丈夫臭いだけ、あっちに川あるから行こう」

「え、凄い良くわかるね」

「まあね、おえっ」


 正確には目の前に展開してる地図を視てるんだけど、他人にはみえないし誤魔化しておく。

 冷たい川の水で身を清める、俺はパンツ1枚でシャツを使ってザバザバ洗ってる。

 

「ふー酷い目にあった」


 闇モドキから出てきたんだから、それなりに良い奴なんだろう今は。闇モドキは俺達を魔の森に捨てた、早めに夜営の準備をしなきゃいけない。


「えっと俺は長谷川太良」

「私は谷、谷凛々子」

「谷さん、ちょっと急がないとまずいから、ビックリしても大声出さないでくれると助かる」

「え?」


 俺はさっさと、風と火の魔法を練り合わせ自分と彼女の服や体を乾かした。


「うわ、なにこれ長谷川君、凄い」


 唖然としてる彼女に構わす、風魔法で落ちた枝を集め火魔法で火をおこし焚き火を作る。

 何処まで見せていいのか悩むけど、あんまり悪い奴じゃなさそうだし、まあいいか。


「谷さん『ステータス』って唱えてみて」

「えっと『ステータス』うわ!」

「あ、見えた?」

「うん、見えた」

「じゃそれちょっと確認してて、俺食材探してくるから」

「長谷川君一人じゃ危ないよ!それに、ここ一人でいるの怖くて」


 髪も服も乾いてるけど震えてた。

 まあ、そうだよな。


「心細いよね。ごめんちょっと焦ってて」


 かなり表層に近い魔の森だったから俺は平気だけど、突然知らない所に来たら心細いよな。

 手を差し出すと素直に握ってくる。まだ人に裏切られたことの無い無垢な魂。叩き壊したくなるけど、そんな事はしない。


「谷さん『ストレージオープン』って言ってみて」

「えっと『ストレージオープン』?」

「手荷物入ってた?」

「うん、入ってた。長谷川君なんでそんなに色々知ってるの?それにここどこ?」

「うーん、答えるの後でもいいかな先に準備しないと」

「あ、うん分った」

「じぁ鏡ある?あったら焚き火の所に置いてもらえる?」

「ある、持ってる、これでいい?」

「『ライトポータル』よし、行こうか」


 結界の焚き火を仮の拠点に設定した、これで直ぐに戻ってこれるや。こっちに戻ったばっかりで、全然魔力が体に貯まってない。なるべく、魔力が取れる獲物がいいな。

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