感情派の人は怒らせると怖い
「冷やかしなら帰ってください」
淡々とした声だった受付の方が、この日1番の大声を上げた。 いたずらのように思えたのだろう。 怒るのも無理もない。
「いや、本気だ。 もう納品してもいいか? 面倒だからさっさとしたいんだけどさ」
リリィが横で怯えるなか、メリッサも負けじと大きな声で返す。 周囲の人の視線が、そこへと集まっていく。
「中には期限が短いものもあるんですよ。 そんないくつか納品されたからと言って……せめて納品できるものだけを受注してください」
受付が周囲の視線に気がついて、咳払いをしてから言った。 ファイルを再び開き直し、どれが納品できるのかをたずねてくる。
「いや、全部できるぞ」
「……もう1度怒りますよ?」
仕方がない。 メリッサはこれ以上怒らせないよう、心の中でため息をしてから、自分の後ろに納品用のアイテムを召喚した。
「ほうら、全部用意できてる」
「……あぁ、そっか。 君、どこかの荷物番の人ね? なるほど、こんな悪ふざけをするのはどこのギルド? 君には怒らないから正直に言って」
ふつふつと湧き上がる怒りと闘いながら、あくまで静かに受付がいった。 それに対して、メリッサは立ち上がりながらカードを見せつける。
「ほら見ろ無所属。 むーしょーぞく」
ドンっ。 受付が机を叩き、大きな音が鳴った。 木製のその机は、メリッサの見間違いでなければすこしへこんでいる。
メリッサは静かに座ると、アイテムを指差す。
「アイテムを受け取ってくれよ」
「分かりました。 ここでは邪魔になるので、1度しまってもらってもいいですか?」
「了解。 で、何処ぞ?」
アイテムを全てしまうと、リリィを立ち上がらせて彼は聞く。 受付の案内に従いながら、別室でアイテムの検品が行われた。
「まったく、かなり状態の良いものがこんなにも。 本当にあなた1人で集めたの?」
「ええと……そうだなー。 そうです」
嘘である。 これはかつてのパーティメンバーがゴミ扱いしていたのを押し付けられただけである。 でも、見栄を張って嘘をついたのである。
「本当は1人が受けられるクエストの量は決まってるのだけど……よろしい。 今回だけですよ。 報酬はいま受け取りますか?」
「あ、今でお願いします」
今すぐにを頼んだ結果、かなりの大量の金貨を受け取ることになった。 もちろん、ストレージはまだまだ広大な宇宙のように余っているので、そこへとしまう。 空間へと消えていくのを見て、リリィが喜ぶ。
「それで、まだクエストをやるっていうんでしょう?」
「とうぜん。 で、なにがあるの?」
「あ、納品クエストはダメですよ。 あなたに受けさせるのは危険すぎます」
「なんでだい」
メリッサはブーイングする。 リリィもそれに続いて、ブーブーと言葉を重ねた。
「クエストに限りがあるんですから、すべての人にできる限り平等にチャンスを与えなければいけないんですよ。 ほら、今ある最高のクエストです。 それと……」
手を差し出された。 カードを渡せ、ということらしく、メリッサは特に抵抗もしないで渡す。
すると、色が緑から赤くなって帰ってきた。 右上部にはデカデカとCの文字が書いてある。
「これであなたはランクCです。 おめでとうございます」
「……どうも。 で、クエストは?」
「もっと喜びなさいよ……その前に、こちらを」
机の上に、針と紙が置かれた。 針はなんの変哲もない鋭い針、刺されば痛そうだ。 紙は黄色く変色していて、かなり古そうだ。 雑に持ち上げれば、すぐに破れてしまうだろう。
「……強制だっけ?」
「強制です。 C以上の方は月に1度、定期でやってもらいます」
メリッサは自分の指を針で刺すと、そこから血が流れ出てくる。 それを何滴か紙の上に垂らした。 血が広がっていく。 それはだんだんと文字へとかたどられていく。
ステータスシート。 身長体重等、その人間の状態がわかる。 健康状態だけでなく、その人のスキルも。
その紙には、メリッサはの予想どおりのことが表れていた。 次元収納レベル10。
「レベル10!? まさか、この目でそれが見られるなんて思ってなかった」
リリィも受付も大げさに驚いていた。 だが、メリッサにとってはどうでも良いことだ。 ステータスシートでは、スキルの名前とレベルが分かっても、具体的にどういうスキルかはわからない。
レベルが上がったことによって、なにが変わったのかもだ。 メリッサは、多少の変化についてはもう理解していたし、それ以上がわからないことで、興味が持てなかった。
「それよりもクエストを……」
メリッサはレベルが上がったこと以上の驚愕を、このクエストによって受けることになった。
カラカル 【怒れる受付女】
おそらく小説内で名前が出ることはしばらくないと思われる受付の女性。 激しい希少を理性の皮で誤魔化すタイプで、内面で怒りながらもしっかりと仕事を遂行する大人の女性。
プライベートは分けるタイプで、仕事外の彼女に触れて大変な目に合う者も多い。 が、何故か裏では彼女のファンクラブまで設立されている。 こわひ、けど癖になる美人なFカップ。