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食事と握手

「味があって美味いな」


 メリッサは皿に手を添える。 スプーンで中のスープをすくうと、口元へ運んで呟いた。


「いったい、どういう食事をとってたんです……」


 少女は、呆れるように言う。 メリッサにとって、檻にいた頃の食事は、数日間といえど忘れられないものだった。 もちろん悪い意味での話だ。


「それで……いや、とりあえず自己紹介からにしようよ。 俺はーー」


「メリッサ様ですね。 看守の方から聞いたです。 私は、リリィです。 あの、よろしくです」


 耳をひょこひょこ動かしながら、上目遣いで言った。 メリッサは次々に食事をとる。 それをリリィは膝に手を置いたまま、微笑ましそうに見ていた。

 メリッサは、それに気がつくとパンを押し付けて言う。


「お前も食べろよ。 ひとりだけ食べるというのは、居心地が悪いものだからよ」


「いいのです? 食べても」


 少し不安そうな目で、彼女はいう。


「なんでだよ。 お前が食わないなら、俺もこれ以上食べない」


「そんな……分かったです。 食べるです」


 態度と裏腹に、彼女は美味しそうに食べている。 最初は遠慮がちに少量だったひと口も、だんだんと大きくなっていった。


「ごちそうさま。 いいお礼だった。 ありがとな」


「あ、いえ。 お礼というのは食事ではなくて」


 もじもじと、彼女は言う。 視線は、メリッサとは合わない。


「なんだよ。 まだなんかくれるのか? そりゃ悪いよ」


「あ、あの。 お礼というか、お願いなんですけど」


「何を? しかたがない、なんでも聞いてやろう」


「私をあなたの奴隷にしてください」


 メリッサには、一瞬だけ時間が止まったように感じた。 理解できなかったからだ。 彼女の言葉が。

 ようやく少しだけその意味がわかってから、こう返答する。


「やだね。 お前は奴隷になんかさせねえ」


 メリッサは首元へと手を当てて、はっきりと言った。


「お前はもう、解放されたんだ。 だから、冗談でもそんなこと言うな。 悲しくなるぜ」


 その言葉にリリィは、ようやく目を合わせる。


「でも、私はあなたに返せないほど恩が……」


「いらないよ、押しつけんな。 お前まで、俺を怒らせるようなことしないでくれ」


 メリッサは彼女を通して、ほかの誰かを見ているようだった。 リリィは悲しそう顔をする。 それを見かねてメリッサは言った。


「奴隷はいらない。 けど、ちょうど友達が欲しかったんだ。 リリィ、お前ならちょうどいい」


 片手を差し出す。 握手のつもりで彼はそれを彼女へと向けた。


「あ、ええと。 その、よろしく……です」


 その手の甲へと、彼女は手を合わせた。 メリッサは、つい吹き出して笑った。


「バカ。 握手だよ……こうやるんだ」


 メリッサが彼女の手を誘導して、握手の形を作る。


「あ、すみませんです。 改めて、よろしくです」


 握手の成立を確認してから、メリッサはまた笑った。 それにつられて、リリィも笑った。

リリィ  【ですです獣人少女】

  甘色の髪にネコ耳をくっつけた元奴隷の少女。 そもそも獣人が100年ぐらい前に突然現れて、10数年前に消えていった希少な種族。 なので少女はとても希少なのだが、あまり良い待遇を受けていなかったのは服装からわかる。

  とはいえ再登場した今話では、少しだけ小綺麗な格好でいたので、何かしらでお金を稼いでいる様子。 念願の友達を手に入れた彼女の明日はいかに。

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