友人以上家族未満
殴られた頬をさすりながら、レオナルド邸に帰宅する。 玄関をあがると、リリィが迎え入れてくれた。 やや腫れている頬を心配するように、彼女は近づいてくる。
「メリッサ様、どうされたです」
「んー、気にするな……レオは?」
「あ、レオナルド様は先ほど戻られたところですです」
語尾もそうはならんやろ。 メリッサは喉まででかかったツッコミを堪えた。 落ち着け、自分は生涯ボケ側の人間で生きていくんだと。 廊下を鳴らしながら歩いていくと、レオナルドの部屋に着く。 メリッサは拳でドアを叩くと返事を待った。
「メリッサか?」
「あぁ、そうだ……入るぞ?」
メリッサの問いに、答えは返ってこない。 ゆっくりとドアを開けていくと、レオナルドは厳格そうに座っていた。
「ん……なんだいその顔は。 ひどいやられようじゃないか」
「なんだよ。 やけに嬉しそうじゃねえか。 俺がやられてるのによ」
メリッサは、頬をさすりながら言った。 その口調はやや不満そうだ。 レオナルドがその調子に合わせて、笑う。
「どうだろうな、嬉しいかも知れん。 君が化け物ではなく、人のような一面も持ち合わせているということだ」
「人も人よ……弱点だらけだぜ。 あれ、お前は俺の弱点知らなかったっけ?」
「いや待て。言うなよ。 いまそれを聞くのはフェアじゃない」
手のひらを差し出して、メリッサの言葉を遮るレオナルド。 彼には焦りのような、あるいは迷いのような感情があった。 それを察してか、メリッサは深くは聞かない。
「ふーん。 しかし長いお出かけだな……どこ行ってたんだ?」
「そうだね……弱点を聞かない代わりに、それも聞かないと言うのは?」
「いいよ。 興味はあるけど、知られたくないなら言わなくていい。 それでさ、建物も人員もなんとかなりそうなんだ。 金もな……だからさ、上への圧力とAランク昇格の件、頼んでもいいかな?」
メリッサがはしゃぐ心を押さえながらそう言う。 それに対して、レオナルドはすぐには答えられなかった。 ゆっくりと流れる時間の中、メリッサの表情が不安へと傾いていく。 ダメなのか、そう呟くようにメリッサが言った。 それに反応するように、レオナルドは答える。
「分かっている。 準備を進めていくよ」
たしかに彼はそう言った。 お互いに、詮索すべきところでない部分はそうしている。 メリッサは少しも不安に思わず、彼の言葉を信頼した。
「ありがとうな。 レオ……わがままに付き合わせる」
「戦争を止めるのが、私たちの目的だろう。 君のためだけにやるわけじゃない。 ひいては、すべての国民……国のためだ」
「そうだな。 さすがは英雄だぜ」
レオナルドは、壁や外を見ていた。 今の会話の中で、メリッサの顔を覗くのは数えるだけ。 入室、ランク昇格の確認、そして最後にメリッサが退室する時。 メリッサは、気がつかなかった。 最後に彼が静かな目をしていたことに。




