オールorナッシング
あれから、メリッサが尻を蹴ったりクロードが背中を蹴ったりして、男とそのボディガードたちを追い出した。
その後、開かずの間にて、クロードが全員を呼び出すと、すぐに集まる。
「……全員集まったな。 俺はこの男、メリッサに感謝しなきゃならん。 というのもだ……頼んだ」
クロードがそういうと、メリッサに先端が太くなる棒を投げ渡す。 おそらくマイクとかそう言うのをイメージしているのだろうと、メリッサは察する。
「ここの権利者だ。 暫定で、俺が持ち主ってことになる」
少し不服か、クロードがその言葉を間髪入れずに付け加える。
「暫定で……だ。 それをくれるのだろうメリッサ」
「俺にも目的があって苦労したわけだが……欲しいのか?」
「俺たちは仲間だろう。 いや、家族だ……」
屈託のない笑みで、クロードは手を差し出してくる。 権利書をへ向けて伸ばされる手をメリッサは迎え入れるか悩む。
悩んだ結果、メリッサは来る手を払い除ける。
「俺たちよりも、自分の目的を優先するわけか。 メリッサ」
雰囲気は突如と一変。 緊張感が漂う。
「俺を利用するだけして……ポイか。 がめついのはどっちだか」
もう仲睦まじい関係は消えている。 お互いが、お互いを冷たく見合っている。
「なんの……」
なんのことだと言う口を、次の言葉で塞いだ。 クロードの視線が動くのを、メリッサは見逃さなかった。
「身内贔屓するなら最後までしっかりしろよ。 疑うな……ネーナは何もしてねえよ」
ーーあの男を利用する。 情で動くタイプだ。 簡単に流されるさ。
どこからから、クロードの声が聞こえる。 小型の魔力で動く蓄音機。 それがメリッサの手から投げられ地面に落ちる。
「……疑心は闇に鬼を飼うぞ。 メリッサ」
「だが、真実を知れる。 情に流されるか、なるほど。 信じたくはなかったよ。 少しだけ、本気にしてたんだが」
挑発するように不適に笑うも、メリッサの目はどこか寂しそうだった。 対するクロードも、罰が悪いのか視線がメリッサに……誰にも合わない。
「どうするつもりだ。 取り引きをしよう。 神の目的に協力するからそれを寄越せ」
「取り引き? 取り引きか……悪くない」
「なら……何をすればいい。 どうすれば」
クロードはメリッサの心の中を探る。 目的は何か、本当に譲るつもりはあるのか。 あの状況から自分を疑うような男だ、何か本心がある。 クロードにとってこの駆け引きは騙し合いだった。
「俺を仲間に入れてくれ。 本心でだ……そしたらこんなものくれてやる」
クロードは虚をつかれた。 いいや嘘だ何かがあるはずだと考える。 考えるほど、何も浮かばない。 どうたどっても、自分に利しかないのが不信となる。
「どう言う意味だ。 何を考えてやがる」
「そのまんまの意味だ。 建前でもお前が言ったことだ」
本気で裏を取り騙そうとする自分にとって、メリッサの言葉はまるで無防備だった。 嘘でも仲間だと言った後、権利書を取ったら切り捨てればいい。 先ほどと何も変わっていない。
クロードは笑った。 笑いながら言った。
「このメンバーの過半数が、お前を認めたならいいだろう。 お前ら、こいつを認めてもいいと思うか?」
クロードが言うと、そこにいる全員が手をあげる。 それはメリッサにとって予想外で、驚くがそれを表には出さない。
見事にこの建物を奪ったのを見せられては……なんて声もあがっている。
クロードは、続けて言った。
「なら、こいつがギルドマスターだとしたら?」
その言葉に対して、全員が手を下げる。
「ねぇ、彼をマスターにする必要あるの? 別に良くない」
「良くねえよ。 こいつはBランクだ。 そして、金と英雄の名前……もうAランクは目の前だな」
クロードが声を荒げた。 メリッサは心の中を透かされて、焦る。 はじめはただの仲間から、マスターの資格を持つのは自分だけだから、すぐになれると思っていた。
「なら、認められてやる。 それができなかったら、こいつをやるよ」
メリッサは権利書を揺らした。
「ひと月だ。 ひと月で過半数の承認を得てみろ……それがダメだったら」
「過半数? いいや、全員でないと意味がない」
メリッサは、はっきりと伝える。
「……今更吐いた唾を飲むなよ」
ひと月で全員の承認。 メリッサは賭けに出た。 全部をかけて、ゼロか全部かのかけに。




