信頼関係の構築 ※おっさんとです
アズガルド砂海。 砂がサラサラすぎて足の踏み場がない砂による海。 アリ地獄のように足を取られて沈む者も少なくない。 それが一面に広がっており、太陽の照りで眩しく映る。 その雄大さは、見るものを魅了する魔力を持っている。 事実、それを初めて見るメリッサも、目を細めながら感動していた。
「これが、砂海。 すげぇ、砂がこぼれる」
メリッサが手のひらで砂をすくうと、それが風にのって飛んでいく。 キラキラと太陽の光が反射して、まるで夜空の星のようにも見えた。
「初めてか、砂海は」
「あぁ、初めてだよ。 出来ればお前みたいなおっさん以外と来たかったな」
それは愚痴のようだった。 初めて来る土地に感動、そんな場面ではできれば人生の伴侶ときたい。 そう思うのは、まだ若い証か。
「悪かったな……海。 海に恵まれない我が国は、この砂海に、海を思ったという。 学ぶことは多いぞ」
「説教かよ。 うるせー」
メリッサは説教の類を聞き飽きていた。 またパーティリーダーが酒に酔うとうるさいタイプだったから。 彼の不平そうな発言にレオナルドは、ため息をこぼす。
「お前なぁ……ついでだ、いいものを見せてやろう。 こっちだ」
レオナルドに言われるままついていく。 そこには、波のようになびく大地が広がる。 波に合わせて揺らめく生物。 砂を泳ぐ魚を、生きた状態でメリッサは初めて見た。
「魚群だ。 あぁ、そこから足を踏み出すなよ。 底がないぞ」
レオナルドの注意に、メリッサが足を止める。 確認すると、たしかに砂の波に足が少しばかり取られていた。 その足をまた上げると、重くて少しだけ抵抗を感じる。 何だか嬉しくて、メリッサの表情は緩みっぱなしだ。
「分かった。 あの魚が、いつも俺たちが食べてるやつに?」
「あぁ。 そうだよ、意外かな」
「想像つかねえ。 ありがとなレオナルド」
その礼の言葉は、無邪気さからくる本音だった。 これまでイヤミ以外では礼など言ったことがあまりなかったメリッサが、本心からこの男へと伝えた。
「貴様に礼を言われるとはな……さて行こうか。 危険のないうちにさっさと終わらせよう」
「サンドワーム……そいつのツノか。 お前に護衛が必要なのか?」
サンドワーム。 砂漠方面に出る砂ミミズである。 稀にツノを持つ個体がいて、それを採取する際の護衛が今回のクエスト。 だが、レベル8の魔法使いに、護衛など必要なほどのモンスターとは聞いたことがない。
「要項をよく見ておらんのだな。 レベル9以上の人間、あるいは年齢10未満の女性だ」
ーーやはり奴はロリコンだった。 メリッサは彼を見直そうとした自分に後悔した。
「……今お前を殺しておくのが社会のためか」
「まてまて、私に何の罪もない」
「どの口がいうか……と、ここらでいいか」
丘が多い砂漠で、初めて開けた場所に出た。 起伏のある地面からの照り返しで、少しだけ他よりも暑く感じる。 そこでメリッサは足を止めた。
「ん? 何の話かな」
「魔法を俺にうて。 手加減すれば殺す……なんて脅しは必要ないだろ」
メリッサは、拳で自分の胸を叩く。 レオナルドとは少しだけ距離をとって、しっかりと足をつけて立った。
「そういえばそうだったね。 さて、後悔はしないでくれよ」
今更、手加減が必要ないのはお互いにわかっていた。 炎、氷、雷と複数の大きな魔力がレオナルドの周囲に現れる。
「おいおい。 街では手加減してやがったな」
「当然だろう。 私の本気は、街中で出すようなものじゃない」
それらが一斉に、多方向からメリッサを襲う。 少しの恐怖と後悔とともに、メリッサはしっかりとそれを目で追った。
問題ない。 メリッサは、その魔法がストレージに収容されていく瞬間を目で追いながら、自らが無意識に息を止めていたことに気がついた。
一息ついてから、大きく吸って吐く。 若干酸欠気味だった全身が、リラックスしていくのがわかる。
「ありがとう。 レオナルド」
メリッサは感謝の言葉を、相手に伝えた。
アズガルド砂海
砂でできた海。 浜と海の境界線が分かりづらいため、鎧を着たまま海へ落ちて溺れると言われている。 ただし、そんな事故が実際にあるのかは不明。 クエストは平原方面よりも高難易度になることが多い。 夜になるとまた違った顔を見せるらしく、デートには持ってこいだろう。




