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首のない鶏トム(実話を元に作成)

作者: エフェ


あるとき、俺は首を切り落とされた。そのように言えば、皆さんは一瞬何のこと⁉︎って思うかもしれませんが、俺が鶏である(いや、あったこと)と言うならば、納得するでしょう。



まあ、いきなり首を切り落とされたのは……あのときが始めてでした。





* * *



俺は、鶏のトム。アメリカコロラド州の農家で生まれて3年くらいの年月が過ぎている。



「おい、この雛を見てみろよ。生まれたばかりだ。」



そう話しかけたのは、この家の主のハリーさんだ。



「わぁ、ほんとだ。かわいいわね!」



この人は、ハリーさんの奥さまのレベッカさん。



「きっと、立派な鶏に成長するぞ。」



「うん、楽しみだね」



そのようにして、俺は期待されていたのである。いや、正確に言うとそう思っていたわけだ。



ところで、俺の食事は豪勢なものだった。米、米ぬか、種子、おから、大根葉、キャベツ、かぼちゃ、昆虫など、当時は、一般的に他の鶏の仲間たちは食べることはないだろう。俺は、そんな食事を毎日食べていたのである。



また、俺の生活は自由が多かった。他の鶏たちは、身動きもできないほど狭い鶏舎の中で生活しているのだが、俺は広い敷地を自由に行き来していた。中でも、屋根の上でのんびり地上を見下ろしながら休憩しているのは、最高な気分になれた。



そう。あの時までは、俺は何もかも満足していた。





* * *



季節が秋に入り、肌寒さを感じるようになっていた。



そのようなとある日の夕方近く、決して忘れることのできない事件が発生した。



そのとき、俺はいつものように広い敷地の中を散歩しているところだった。



「ハリー、子供が気分が悪いって言うから、熱を測ってみたらひどく高いの。病院に連れて行くから、食事は自分でしてね。」



奥さまのレベッカさんが、ハリーさんに話しているのが聞こえた。



「それから、洗い物を途中までしていて……それを、終わらせておいてちょうだい。」



『なんだか、子供の病気がひどいみたいだな。早く良くなるといいけど。』



俺は、この家の家族の人達の様子を見ながら、そんなことを思った。



その日は、一日中とても重たい空気が漂っていた。子供の容態は、予想以上におもわしくないのだ。



夜遅くまで、ハリーさん夫妻の部屋の明かりが灯っていた。俺は、庭の奥にある木の枝に止まって、その様子を眺めていた。



翌日、俺は食事を終えて、居心地の良い場所でうとうとしていた。すると、その時、急に誰かが俺の体を掴んだのが、はっきりとわかった。



『おい、離せ⁉︎』



俺は、見知らぬ男性の方を見て大声で叫んだ。



そして、裏庭に連れて行かれると、あっと言う間もなく首を切り落とされたのだった。





* * *



「何もあの鶏を潰さなくても。」



後からわかったのだが、奥さまのレベッカさんは、とても反対したようだ。



「子供には、栄養を摂らせてあげないとね。わかるよね。だけど、潰すのは誰か他の人にやってもらうよ。」



俺が、首を切り落とされるまでには、このようなやり取りがあったらしい。





さて、この話はこれで終わり……と思うかもしれませんが、ここから肝心なことをお話しなければいけないのです。





俺が一番びっくりしたのかもしれないが、首を斬り落とされたのに、俺は死ななかったのだ。



「たっ、大変だよ⁉︎」



俺の首を斬り落とした男性が、大声で叫んだ。



「どうした?大変って、何があったんだ?」



ハリーさんは、取り乱した様子の男性を見てそう尋ねた。



「鶏が生きている⁉︎首を斬り落とした鶏が、生きているよ!」



男性は、とんでもない、恐ろしいものを見てしまったような表情をしている。



「おい、気は確かなのか?それとも、何かの冗談なんだろ?」



ハリーさんは、何を言ってもいるのか、にわかには信じられないという様子だ。



結局、男性とハリーさん夫妻は、半信半疑のまま裏庭まで俺を確認しに来たのだった。





* * *



首のない俺が、以前同様にしているのを見て、ハリーさんレベッカさん夫妻がどれほど驚いたのか、筆舌できないほどのものかもしれない。



その後の俺は、またいつものように広い敷地の中を散歩していたと言いたいのだが、なにせ首がないのだから、動き回るのは難しいと言ってよかった。



『やはり、首無しだと見えないし動けないから、楽しくないな。』



『それに、食事は何かわからないけど、細い器具を首に当てていて、それからお腹に食べものが入ってくるようだ。』



それは、首のない鶏になった俺の正直な気持ちだったと思う。



だが、首がなくなったことで、楽しいこともあった。



俺には、一日中世話してくれる人ができたのである。要するに、鶏の身分でハリーさん夫妻と同じ部屋で生活をすることになったのだ。



爪の手入れや毛繕い、暖かい部屋にふかふかのベッド、鶏で人と同じように生活したのは俺くらいかもしれないと、今でも思っている。





『そう言えば、今日は……やばい!!』



俺は、ベッドから飛び起きた。



学校で、大事な試験がある日なのだ。



俺は、食事もそこそこにしたまま、家を飛び出していた。





試験は、どうやら無事に終了したみたいで、俺はほっとしていた。



この話は、2日前に友達から聞いていたものだった。なんでも鶏は首がなくなってから18ヵ月の間生きていたそうだ。



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