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グレイ、信念の戦い

 扉の前に陣取って槍を立てたグレイは鋭い視線のままだが、どこか晴れ晴れとした表情だ。


「もう何の憂いも無い。貴様等も我々に翻弄されて腹が立っているだろう?ただ、ここからは存分に戦えるぞ。嫌というほど付き合って貰おう」

 

 左腕に装着した小盾はとっくに壊れて無くなっており、兜の鐔も半分は欠けて吹き飛んでしまっている。

 グレイ自身も満身創痍だ。


 それでも落ち着き払ったグレイは立てた槍を静かに構える。

 愛用してきた槍には特別な素材は何も使われていない、鉄と鋼でできた軍の標準的な装備品だ。

 当然ながら魔法の力も込められていない。

 唯一、納品された際に神官が祈りを捧げて何らかの加護を受けているようだが、一般部隊の装備品ともなれば、そんなものは流れ作業のようなもので、大した御利益もなければ、グレイも期待していない。

 ただ、この槍を打った鍛冶師の腕が良いのか、手に馴染んだ槍は傷だらけであるが、刃こぼれも歪みもない。

 このまま最後まで持ちこたえてくれるだろう。


 グレイは正面の竜人の衛兵達を見据える。

 勇猛で誇り高いと名高い竜人の衛兵だ、それは精強なのだろうが、指揮官を失っているのか、その動きには精細を欠く。 

 それでも今までの突撃突破でなく真正面からの真っ向勝負では圧倒的に分が悪い。

 加えて1対数十の戦力差ともなれば万に一つも勝ち目はない。

 それでも、万に一つの勝ち目が無いならば十万に一つの勝ち目を掴むだけだ。


「多勢に無勢などと世迷い言は言わんよ。全員まとめて相手にしてやる!聖監察兵団の恐ろしさ、その身と心に刻み込んでやる」


 竜人達がグレイに向かい殺到し、グレイも槍を手に数十の敵に斬り込んで行く。

 最後の戦いが始まった。


 目の前の竜人の衛兵の顎を石突で砕き、返す切っ先で別の衛兵の目を抉る。

 顎を砕かれてのけぞった衛兵の襟首を掴んでその身体を盾にしてその後方にいた更に別の衛兵の喉を貫き通す。

 グレイに向けられた槍の切っ先は捕らえている衛兵の身体で受け止め、グレイの目の前に踏み込んだその足を槍で突く。

 盾にされて味方の槍を背に受けた衛兵を手放し、足を刺されて動きを止めた衛兵に槍を突き出すが、逆に払われて反撃を受けて左腕を切り裂かれた。

 それでもグレイは怯むことなく踏み込んで間合いを詰めてその衛兵を蹴り倒し、倒れたところにとどめを刺す。

 初手で4体の竜人を葬ったグレイ。

 左腕に深手を負ったが、まだまだ戦える。


 正面と左右の三方向から衛兵が同時に斬り掛かってくる。

 グレイは前に踏み込んで正面の衛兵の首に槍の柄を打ち込んで左に捌き、体勢を崩した衛兵は左手にいた衛兵を巻き込んでもんどりうって倒れる。

 直ぐに右手の衛兵に向かうが、間に合わない。

 下から斬り上げられた剣を避けきれず、顔面の右側を切り裂かれると共に兜が吹き飛ばされる。

 鮮血を吹き流しながらも目の前の衛兵の口に切っ先を突っ込んで仕留め、左側で折り重なって倒れた2体の衛兵を渾身の力を込めて貫き通す。

 

 貫いた死体に足を掛けて槍を引き抜いたグレイは不敵な笑みを浮かべた。


「どうした?貴様等は私に7人も倒されていながら私はまだ立っているぞ。誇り高い竜人の戦士の実力はその程度なのか?」


 自ら赤い血を流し、竜人特有の薄いワインのような色の体液を全身に浴びて笑うグレイの姿に竜人達は背筋を凍らせた。

 それでも強者と戦うことが何よりの誉れとする竜人達だ、グレイに恐怖を感じつつも、その恐怖をねじ伏せて前に出る。


 グレイも槍を構え直し、飛びかかってくる竜人達を迎え撃とうとしたその時!


 バシュッッ!


 目が眩む程の閃光がグレイに降り注ぎ、次いで柔らかな光がグレイの周囲を覆った。


 竜人達も警戒して引き下がる中、グレイを包む光に向かって3つの影が舞い降りてくる。

 徐々に輪郭を露わにする3つの影は揃って白銀の衣を纏い、背中に2対の翼を持つ美しい女性、いや女神だ。


 杖を手にする慈愛神シーグル。

 真理の書を持つ知識神イフエール。

 両手に剣を携える武神トルシア。


 3神と呼ばれる3柱の女神が降臨し、それぞれが慈悲深い目でグレイを見ている。

 竜人達までもが呆気に取られて立ちすくんでいる中、3神に向かってグレイが叫んだ。


「何をしに来た!私は貴女達の助けなど望んでいない!こんな所に来る暇があったら他に手を差し伸べるべき者がいる筈だ!武神トルシアよ!貴女を信じて未だに戦っている者は大勢いるぞ!知識神イフエール、私の部下は私を信じられない心の迷いを持っても貴女を信じ続けていた。慈愛神シーグルよ、貴女を信仰していた私の部下は今まさに死の淵に立たされているぞ!そして、貴女が力を授けた聖女はこの先で頼りない英雄と共に魔王と戦っている!彼女達にこそあんた等の力が必要なのではないのか?」


 グレイは3柱の女神に向けて槍の切っ先を向けた。

 不敬にも神を睨み付けるグレイにシーグル神が手を差し伸べようとするが、グレイはそれを遮る。


「止めろっ!私に向けて使う無駄な力があるならば、その力を他の者に使え!そしてなにより、ここは私の戦場だ!私の仕事の邪魔をするな!」


 言い放つグレイにシーグル、イフエール、トルシアの女神は少しだけ悲しそうな目を向け、弱まりつつある光と共に姿を消した。


 グレイは再び竜人達に対峙する。


「邪魔が入ったが戦いはこれからだ!行くぞっ!」


 槍を振りかざして斬り込んでいくグレイ。

 一閃で更に2体の竜人を葬るも強烈な反撃を受けて竜人の剣がグレイの左腕を貫通したが、グレイは怯まない。

 一突、二撃、三閃と攻撃を繰り出すが、竜人達を捉えきれず、仕留めることができなくなってきたばかりか、反撃を受けて手傷が増えていく。

 深手を負い、一撃が弱く、踏み込みが浅くなり、敵の反撃を躱しきれなくなってきたのだ。

 剣で斬られ、槍で突かれ、吹き飛ばされて壁に叩きつけられ、いくつもの致命傷になる程の傷を負ってもグレイは立ち上がる。

 気力などではなく、意地で立ち向かい、敵中に飛び込んで斬り結ぶ。

 

 そんなグレイにとどめを刺そうと唯一残っていたダークエルフの魔導兵が後方で強力な炎撃魔法の詠唱を続けていた。

 その魔法がグレイに向けて行使されればグレイは骨も残らずに焼き尽くされてしまうだろう。


 グレイは戦いながらその様子を窺っている。

 ダークエルフが詠唱を終えてグレイに向けて魔法の起動語を唱えようとした瞬間、グレイは最後の力を振り絞ってダークエルフに向けて槍を投げつけた。

 

 グレイの投げた槍はダークエルフの口に飛び込んで、その後頭部まで刺し貫いた。

 ダークエルフの体内を魔法が逆流し、その身体を内側から破裂させて周囲の竜人達を焼き尽くす。

 爆発的に広がった魔力は天井を突き崩し、残った竜人達を瓦礫の下敷きにしていく。


 そんな中でグレイは力尽きて膝をつき、瓦礫の中に消えていった。

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