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最後の戦い

 グレイ達4人に対して魔王軍の兵は数十体の衛兵に2人のダークエルフの魔導兵。

 まともに戦うならば絶望的な戦力差であるが、グレイの表情は普段と何ら変わりない。

 戦いの前の鋭い視線だが、絶望や諦めといった影はない。


「これは、敵を食い止めると言っても限度があるな。どうせこいつ等は扉の向こう側には行くつもりはないようだし、どうしたものか」


 目の前には未だに一個中隊程度の敵がグレイ達を半包囲している。

 グレイの言うとおり、衛兵達は扉の向こうの魔王と勇者達の戦いの場には立ち入るつもりはないらしい。

 それ故にその場に飛び込まなかったグレイ達を見逃すつもりはないようだ。

 ここまでは小隊一丸となり、多少なりともセイラやイザベラ達の援護を受けて敵を強引に突破してくることができた。

 しかし、今現在敵に対峙しているのはグレイ、アレックス、エミリアにクロウの4人だけだ。

 まともに戦えば四半刻も持ちこたえられないだろう。


「いやはや、絶望的な戦力差ですね」


 双剣を持つクロウはその言葉とは裏腹にまるで緊張感がない。

 むしろ、その状況を楽しんでいるようにも感じられる。


「アレックス、隊員達は?」


 グレイが傍らに立つアレックスに聞いた。


「そうですね、私の分隊と第3分隊員には最後の突撃の前に示達しておきました。小隊長が突っ込んで、レオン達を守り、ある程度の道が開けた後に自分達が突破するのが困難ならば反転離脱しろと。敵は前に進もうとする私達やレオン達を狙うでしょうから離脱するのはそう難しくないでしょう。上手く離脱できたならば今頃はシルファ分隊長を回収して逃げおおせている筈です」


 アレックスの報告に頷いたグレイ。


「ならば、後は我々だけの心配だな。戦いが始まったら祈っている暇はないぞ!覚悟はいいか?」


 グレイの言葉を聞いたエミリアはイフエールの女神に自分ではなくグレイを守ってくれるように祈った。

 グレイは嫌がるだろうが、これはエミリア自身の祈りだ、グレイにも文句は言わせない。

 そして、最後にずっと心に秘めていた疑問をグレイの背中に投げかけた。


「小隊長、最後に教えてください。小隊長は何故頑なに神を信じないのですか?」


 エミリアの問いにグレイは肩を竦める。


「神の存在なんて私には意味もなければ興味もないことだ。世界には理不尽が溢れている。何の罪もない子供達が病に冒されて死に、飢えて命を失うかと思えば、世の中には唾棄すべき悪党が我が物顔でのさばっている。そんなものを目の当たりにすると神とかいう存在に文句の1つも言いたくなる。奴等には奴等の真理や都合があるのかもしれんし、そんなことは自分達でどうにかしろと言われるかもしれんが、自分を信じて救いを求めている弱き者まで救われないことが酷く理不尽に思えてな。だから私は意地でも神に救いを求めないと決めたのさ。自分の行いの成果も罪も、全ては自分の責任だと。そう思っていたらいちいち考えるのも面倒になり、興味も失せた」


 振り返ることなく話すグレイ。

 エミリアは初めてグレイのことを理解したような気がした。

 グレイは酷く不器用で融通が利かないのだと。

 エミリアは思い残すこともなくなり、気持ちも軽くなる。

 グレイにどこまでも、それこそ冥界の門の先にでもついて行こうと決めた。


「さて、敵も待ちくたびれただろう。いつまで待たせても失礼だ。そろそろ行くか。敵中に斬り込んで突破して離脱する。この先は生き残るための戦いだ!絶対に立ち止まるなよ!」

 

 グレイはアレックスとクロウにだけ目配せをし、その意を酌んだ2人は無言で頷いた。


 4人はグレイを先頭に走り出す。

 グレイ達を包囲しようとする敵に衝突する寸前にアレックスがグレイの前に飛び出してハルバートを一閃し、正面の竜人達の足を止めた。

 その一瞬の間隙にグレイとクロウが飛び込んで敵の中央部を切り崩す。

 その間に後方に回り込もうとする敵は殿に回ったアレックスが牽制して寄せ付けない。

 エミリアは強力ではないが守りの加護を展開しつつ周囲を警戒。

 グレイに狙いを付けて魔法を撃ち込もうとしているダークエルフを見逃さなかった。

 

「小隊長!失礼しますっ!」


 グレイの肩を踏み台にして高く跳躍したエミリアはグレイを狙うダークエルフの目前に飛び込んでその喉をショートソードで刺し貫いた。

 長い髪と眼鏡を掛けた顔に返り血を浴びるがそんなことは気にせずにダークエルフの喉を抉る。

 そして、エミリアに向けられた竜人の槍の柄に足を掛けて再び跳躍し、竜人の頭を踏み越えてグレイの背後に舞い戻る。

 ハーフエルフとはいえ、エルフに匹敵する身体能力だ。

 返り血を浴びた姿がエミリアの美しさを逆に際だたせていた。


 4人は連携して十倍以上の敵の中を突き進む。

 十倍以上とはいえ、数が多過ぎて4人しかいないグレイ達と斬り結んでいるのは接触面にいる少数で、他の大多数は味方に阻まれてグレイ達の姿を捉えることすらできない。

 それこそがグレイの狙いであり、そこに敵の隙が生じた。

 意外なほど呆気なく敵の中央部を突破したグレイ達4人は脱兎の如く逃げ出した。

 

 広い通路を出口に向かって走る。

 背後ではグレイ達を追う魔王軍の吠える声が聞こえる。

 やはり見逃してはくれないようだ。

 しかも竜人の足は速く、背後から襲われることは強行突破よりも遥かに危険だ。

 周囲には小隊員の姿は無く、途中で倒れた筈のシルファの姿も無い。

 アレックスの指示通りに離脱してシルファも回収できたようだ。

 走る先にある扉の向こう側に残ったウォルフ達第1分隊も同様に離脱したと信じる。

 ならばもう何の憂いも無い。

 正面の扉を前にグレイは足を止めて振り返った。

 扉の向こう側に戦いの気配は無い、大丈夫だ。


「隊長!キャッ!」

 

 グレイに続こうと足を止めたエミリアをアレックスが抱え上げて走る。


「アレックス!放しなさい!」


 逃れようともがくエミリアを無視して走るアレックス。

 先行したクロウが扉を開けて向こう側に飛び出して行く。


「行けっ!生き延びろ!」


 退路である扉を背にグレイが叫ぶ。


「隊長っ!待って下さい!私もっ、私も一緒に!お願いしま・・・」


 エミリアの悲鳴はクロウが閉ざした扉に遮られた。

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