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英雄達を守り抜け1

 魔王城は聖騎士団を中心とした連合軍騎士団に包囲されていた。

 包囲される城はかつては帝国皇帝の居城だったが、魔王ゴッセルが降臨すると共に瞬く間に帝国は滅ぼされ、この城も魔王のものとなった。

 魔王城に至る道筋や城の周辺には騎士団に打ち破られた魔物達の死骸が散乱している。

 魔王城を守る部隊だけあり、死骸の中には竜人やオーガ等の強力な魔物のものもある。

 その魔王城だが、城内には未だに数多くの守備戦力を有していると予想されるのだが、周囲の守りは意外な程薄く、連合騎士団は城門、城壁を瞬く間に突破し、城を包囲したらしい。

 強大な力を有する魔王に守りの余分な兵力は不要だということなのか、外から見る限り魔物達の気配は認められず、不気味な静けさに包まれていた。


 グレイ達が到着した時点で既に勇者達は城内に突入した後らしく、城の正面は聖騎士団が固めていた。

 聖騎士団を指揮するのはイザベラともう1人、聖騎士のアランだ。


「あらレオン、到着しましたの?グレイ達も、遅かったですのね」


 イザベラに声を掛けられても息の上がっているレオンは話すことができない。

 この様子では先に突入した勇者達を追うにしても若干は時間が掛かりそうだ。

 グレイはイザベラに敬礼をしてその場を離れて各分隊長を集めて最後の指示を出す。


「これから彼等を護衛しつつ魔王の待つ城内に突入する」


 グレイの前に整列する3人の分隊長を見渡した。 

 グレイの横にはエミリアも控えている。


「我々の使命は聖女と英雄を護衛しつつ魔王の下に送り込むことだ。つまり・・・」


 3人の分隊長とエミリアの表情に緊張が走る。


「つまり、我々は魔王と戦うわけではない!そんな大それたことは我々の手に余る」


 肩を竦めて笑うグレイの言葉に4人は拍子抜けする。

 普段はあまり見られないグレイの気遣いだと分かり、僅かだが皆の気持ちが軽くなる。


「まあ、そういうわけで、我々が今から戦うのは魔王ではない。その配下の魔物達だ。だが、そうはいってもここは魔王のお膝元で中にいるのは云わば近衛兵だ、強力な奴等だろうから気は抜けないぞ。基本的にはここまでと同じ陣形でいく。この戦いは非常に困難で危険だ。損害を受けた分隊は状況によって分隊ごとに戦列から切り離す。切り離された分隊は可能な限りその場に踏みとどまり、限界になったら後退して城外に逃れるか、それが困難ならば少しでも安全と思われる場所に待避しろ。玉砕することは許さない。決して命を無駄にするな!」


 4人は頷いた。


「以後は突入までの間、準備をしつつ待機!」


 命令を聞いた分隊長達は揃って敬礼し、各々の隊員に命令を示達しに戻っていった。

 エミリアもグレイから離れて神に祈りを捧げている。


 グレイはこれから突入する魔王城を眺めていた。

 レオン達の様子を見れば、装備品の点検を入念に行っている。

 先を急ぐとはいえ、準備を怠るようなことはないようで、突入までは今しばらくかかりそうだ。

 そんなグレイの横に第2分隊長のアレックスが立つ。


「ここまできましたね」


 しみじみとアレックスが呟いた。

 分隊長の頃からの部下で、小隊の中でも一番付き合いが長いアレックスは、信仰を持たないグレイに対しても分け隔てなくついて来てくれた。

 そんなアレックスにグレイは随分と助けられたものだ。


「確かにな。あの頃は胡散臭い、はみ出しものの分隊長の下で苦労しただろ?」

「いや、私もそこまで敬虔な信徒ではありませんからね。面白い隊長の下で好きにやらせてもらいましたよ」


 アレックスは笑いながら話す。


「それに、隊長には色々と教わり、鍛えられました。確かに、隊長の素性故に分隊ごと白眼視されもしましたが、実績を重ねるにつれ、周りの見方が変わっていくのが面白かったですよ。隊長は知らないでしょうが、短期間で様々な実戦経験を積めるってことで、分隊への配属希望者の競争率は高かったんですよ」

「そうだったのか?」

「はい、隊長の評判は悪いままだったから、短期間の配属希望者ばかりでしたがね。分隊に配属された新米のフリッツを覚えていますか?奴も信仰に関しては隊長を軽蔑していたんですよ」

「それは知っていた。しかし、アレックス、それをわざわざ私に言うか?」


 アレックスは笑った。


「そんなフリッツも軍務に関してだけは隊長を崇拝していましてね、今ではシーグル教皇の護衛隊員ですよ。他に弓兵だったアストリアも、第2大隊直属の弓兵分隊長ですよ。あの頃の隊員は誰一人として戦死することもなく、精強に成長しました。そして、私は今でもここにいます。・・・隊長、いざという時、本当にヤバい時は、迷わずに私の分隊を使ってください」


 アレックスの言葉にグレイは無言で頷いた。

 

 やがて、レオン達の準備も整い、突入の時。

 突入するのはレオン、セイラ達とグレイの小隊の他にクロウ、そして、聖騎士のイザベラとアランが共に行くとのことだ。


「貴方達だけを行かせはしません。それに、魔王との戦いはレオン達だけでは心許ないですの。ここから先は私達も行きます。存分に舞わせていただきますわ」


 戦いを前に獰猛なまでの美しさのイザベラが笑みを浮かべた。

 レオン達も覚悟を決めたようだ。


「さ、グレイ。魔王まで道を切り開き、私達を案内してくださいまし。そこまでは貴方の戦場ですのよ」


 レオン達を中心に陣形を整えたグレイは頷いた。

 それを合図に騎士達が閉ざされた城の扉を開く。


「全員に命令!突入する!」


 グレイの号令で142小隊に守られた英雄と聖女が魔王の城に突入した。


 聖騎士が数人掛かりで開いた扉から城内に突入するグレイ達。

 そこは広大な広間で、先に突入した勇者達の激闘の跡か、何体もの竜人の死骸と、冒険者らしき死体が散乱している。

 そして、その奥の扉の前に一個中隊程度の竜人が陣取っている。

 皆が揃いの鎧を着ている竜人の騎士達だ。


「突破する!」

 

 グレイの号令で広間を駆け抜ける。

 前衛を務める第2分隊がハルバートの穂先を揃えて突撃し、第2分隊の隊員の隙間を縫ってシルファ達が矢を放った。

 シルファが同時に2本の矢を番えて放ったため、3人の射手で1度に4体の獲物を射抜く。

 2体は頭部や喉元を貫かれて倒れるが、他の2体は致命傷に至らなかった。

 それでもほんの半瞬、竜人達を怯ませることができ、それと同時にアレックス達第2分隊が激突して突破口をこじ開ける。

 グレイ達の目的は敵の殲滅ではなく先に進むことだ。

 竜人の騎士を押しのけてアレックス達が蹴破った扉の先に飛び込み、殿の第1分隊が扉を封鎖した。

  

 扉の先は広い廊下が伸び、その先に上階へと登る階段がある。

 グレイ達が進むべきはその先だ。

 今のところグレイ達の損害は皆無である。

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