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征かば諸共

 魔王軍と連合軍の戦いの最前線は旧連邦国と旧帝国の国境線まで食い込んでいた。

 国境を守る魔王軍2万に対して連合軍は1万5千。

 最前線の連合軍は士気旺盛であり、更に北方でゼロが展開している陽動作戦が功を奏しているのだろう、数で勝る魔王軍相手に互角以上の戦いを繰り広げていた。

 しかも、その後方には聖騎士団を中心に各国から派遣された騎士団等で構成された予備戦力約1万と、魔王を討ち取るための勇者や英雄、そのパーティーメンバー合わせて70人が控えている。

 予備戦力を投入すれば魔王軍を数で凌駕できるが、予備戦力の役割は別にある。

 前衛部隊が国境線を突破したら予備戦力である1万の騎士団を前面に押し出し、勇者達のために魔王が座する城までの道を切り開く。

 この場での戦いは全て彼等70人を国境線を突破してその先の魔王の下まで送り込むことが目的だ。


 グレイ達は旅の途中でクロウが呼び寄せた輸送部隊と合流した後に勇者達が待機する最前線に到着した。

 王国のみならず、周辺国からも集結した彼等は自信に満ちた表情で自分達の出番を待っている。

 その集団の隅に明らかに場違いな雰囲気のパーティーがいた。

 槍戦士と魔術師の若者、武闘僧侶の少女に斥候のホビットの少女の4人組。

 どうにも自信なさげに周囲を見回している。


「彼等が件の英雄ですよ」


 クロウが指示した槍戦士の若者のレオンとセイラは先の国境砦の攻防戦の折にはったりの英雄と聖女を演じ、魔王軍に捕らわれていた人々を救出したとのことだ。

 クロウの見立てではレオン達のパーティーに聖女となったセイラを加えることで、この戦いの切り札になると睨んでいるらしい。

 グレイにしてみれば、経験の足りない冒険者のパーティーに同じく経験の足りない新米聖女が加わっただけに過ぎず、魔王に対する戦力としてあまり期待ができないのではないかと思うが、クロウには別の何かが見えているようだ。

 何はともあれグレイ達は無事にセイラとアイリアを送り届けることに成功した。


「貴方達が聖女様達を護衛してきてくれましたのね」


 声を掛けられて振り向けばそこには聖騎士の装束のイザベラともう1人の聖騎士が立っている。


「ご無事でしたか、イザベラさん」

「当然ですの。戦いはまだまだこれからですのよ」


 激しい戦いをかいくぐってきたのか、イザベラの聖騎士の鎧にいくつもの傷がついており、兜の羽根飾りも片方は折れてしまっている。

 それでも自信に満ちた表情のイザベラだ。


「貴方もクロウの無茶な要求に振り回されて大変ですのね」


 イザベラの言葉に


(貴女もだよ)


の言葉を飲み込むが


「今、失礼なことを考えましたわね」


イザベラに睨まれてグレイは視線を外した。

 イザベラはため息をつきながらクロウに目を向ける。


「クロウもご苦労様」


 輸送隊に指示を出して荷ほどきをしているクロウにも声を掛ける。


「私もたまには表の仕事をしたいと思いましてね」


 輸送隊が運んできたのはレオン達の新しい装備品だった。

 クロウに何やら説明されて装備品を受け取ったレオンは飛び上がって喜んでいる。

 

 新しい装備品を装備したレオン達パーティーにセイラとアイリアが加わり、見てくれだけは他の勇者達に見劣りしない程度にはなったが、自信に満ちた周囲の勇者達に比べてその表情に滲み出る不安感は隠せない。

 よく見れば全員が小刻みに震えている。


 そんな折、クロウとイザベラがグレイの前に立つ。


「さて、グレイさん。これにて貴方の小隊の任務は全て完了となりました。ご苦労様でした」

「本当に助かりましたわ。流石は私の見込んだ男ですの。これで任務解除、後は自由にしてくださって結構ですのよ。貴方は私が聖監察兵団に呼び入れてから今まで、常に私の期待以上の仕事をしてくれましたの」


 やけに「期待以上」の言葉を強調し、何やら期待、というか何かを強請るような表情でグレイを見るイザベラ。


(なるほどな。後は任務としてではなく、自分で決めろということか)

「そんなことはありませんの。私は貴方を信じていますもの」


 あまりにも自然なイザベラの返答に心に思ったことで会話をしていることにも気付かないグレイは振り返って142小隊の隊員達を見渡した。


 第1分隊長のウォルフ・ランケット、寡黙な男は黙って隊員達に装備の点検と負傷の有無や体調の確認を命じている。


「小隊長殿!我が分隊は準備怠りなしですぞ!」


 ウォルフはグレイを見て力強く頷いた。


 第2分隊長アレックス・クレアスは既に隊員の準備を終えて休息をさせている。


「この小隊に配属された因果だからな。小隊長に付き合ってると次に休めるのはいつになるか分からないからな。休める時に休んでおけよ」


 グレイの方を見ずに、グレイに聞こえるように指示を出している。


 第3分隊長のシルファ・ルーズイット。

 クロウが呼び寄せた輸送部隊から予備の矢を大量に分けて貰っている。


「あのっ、支援は任せて下さい!小隊だけでなく、聖女様にもレオンさん達にも敵を近づかせません」


 少し気弱な性格の分隊長のシルファだが、弓装備の隊員の他の隊員にまで矢筒を持たせていて支援分隊としての任務を全うするつもりのようだ。


 そして、小隊副官のエミリア・リニック。


「グレイ小隊長、行きましょう。私達は小隊長を信じて何処までもついて行きます」


 眼鏡越しに真っ直ぐにグレイを見る瞳に迷いはなかった。


 聖監察兵団に所属しながら神を信じていない小隊長について来てくれる、良い部下に恵まれたものだ。

 グレイはしみじみと思った。

 この部下達を無事に帰還させなければならない、その気持ちを胸の内に秘めて決断した。


「各分隊に下命!我が小隊は引き続き聖女達の護衛に当たる」


 下命するグレイに各分隊長は力強く敬礼した。

 

 そして、再びイザベラとクロウに向き合った。


「我々は引き続き護衛任務に当たります」


 グレイの言葉に2人は満足気に頷いた。


「そう言ってくれると思いましたよ」

「当然ですのよ。私が見込んだ男ですもの。グレイと肩を並べて戦うのも久しぶり。とっても楽しみですわ」


 ここから先は勇者や英雄、聖騎士達の戦場だ。

 一軍人に過ぎないグレイ達とはレベルの違う戦いが待ち受けている。

 その中でグレイ達に出来るのは頼りなさそうな英雄と聖女の盾となり、この身を張って彼等を守ることだ。


 ここまで来たら征かば諸共だ。


 最後の戦いを前にしてグレイは軍命でなく、自分の判断で任務続行を決めた。

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