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2人の男の交差点

 セイラが聖女として認められたことに伴ってアイリアは聖務院から直近護衛士に任じられた。

 出立の準備を終えてグレイ達の前に現れたセイラはシーグル神から与えられた白銀の法衣に杖を持っている。

 アイリアも今までの革鎧ではなく機能的な軽鎧を身に着けているが、持っている弓は今までと同じものだ。

 レンジャーの彼女にとって防具はともかく弓だけは手に馴染んだ使い慣れたものでなければならないのだろう。

 クロウも聖務院礼装の装飾品を外して内側に軽鎧を着込み、双剣を腰に差した実戦的な装備だ。


「改めまして、新たに聖女に任じられたセイラ・スクルドと私の直近護衛士のアイリア・レンです。2人共未熟者ですが、皆さんよろしくお願いします」


 グレイ達を前にセイラとアイリアが頭を下げた。


「引き続き我が小隊が貴女達の護衛に当たります。私の責任において貴女達2人を最前線まで無事に送り届けてみせます」 


 敬礼をしたグレイの指揮の下、142小隊とクロウに守られて聖女セイラは前線に向けて旅立った。


 一行は東の山道ではなく、あえてその北側の雪山に分け入った。

 確かに東の山道は王国軍が掌握してある程度の安全は確保されているし、聖女が現れたとなれば軍の士気も上がるだろう。

 しかし、それと同時にその情報が魔王軍に察知され、セイラが標的になる危険性が跳ね上がってしまうのだ。

 そこで、新たに聖女が誕生したことは最前線に着くギリギリまで極秘として敵の哨戒網をかいくぐり、魔王軍の喉元にまで一気に到達しようとする、そのための少数精鋭の体制である。

 

 厳しい雪山の踏破だが、軍務や訓練で慣れているグレイ達や裏仕事の厳しい状況下にいたクロウは何ら問題ないが、セイラとアイリアも冒険者として生き残ってきた経験があり、数日を掛けて無事に雪山を突破することができた。


 雪山を越えればそこは旧連邦国、連合軍と魔王軍が攻防を繰り広げている戦場である。

 連合軍が優勢とはいえまだまだ魔王軍が展開している危険な地域だ。

 この地で勇者達を援護している聖騎士団に合流しなければならない。


「さて、連邦国内に侵入できましたが、油断はできません。早めに聖騎士団に合流したいところですが、その前にちょっと寄り道をしましょう」


 クロウの説明によれば、連邦国の北側を中心に遊撃戦を展開して魔王軍を翻弄している連隊がいるらしく、その連隊と魔王軍の情報を交換したいとのことだ。

 クロウの案内で訪れた廃村に人の気配は殆どない。

 連隊ともなれば少なくとも数千以上の戦力を有している筈だが、廃村内に居たのは剣士の若者、ドワーフの戦士、エルフの女性が2人、ダークエルフの男女が2人、そして、竜人の戦士。

 それぞれが村の中で休息を取りながら油断なくこちらを窺っているが、ドワーフの戦士とエルフの弓士がグレイを見て歩み寄ってきた。


「よう!久しぶりだなグレイ」


 かつて共同で任務に当たったことがあるオックスとリリスだ。


「お久しぶりです。オックスさんにリリスさん」


 差し出されたオックスの手を握りながらグレイも笑みを浮かべた。

 その様子を見て村の中にいた他の者も緊張を解いている。

 気が付けばセイラとアイリアが剣士とエルフのレンジャーに挨拶をしている。

 顔見知りのようだ。


「すまねえな、そっちの聖務院の兄ちゃんが来るとろくなことが起きないならな。ついつい警戒しちまった。なにしろ面倒事ばかり押し付けてくるからな」


 オックスに指差されたクロウは肩を竦めた。


「連隊規模の部隊がいると聞いていたのですが、別に展開しているのですか?」


 周囲を見渡すグレイにリリスが答える。

  

「いいえ、ここにいるのがゼロ連隊の隊員よ。オックスが副連隊長で私達が連隊付の隊員なの」

「ゼロ連隊?」

「そう、私達は冒険者で編成された非正規部隊。連隊長と副官はそこの屋敷にいるわ」


 案内されて屋敷に向かう一行だが、心なしかセイラの表情に緊張のようなものが浮かんでいる。

 グレイ達が案内された屋敷にいたのは黒ずくめ戦士と魔導師。

 ネクロマンサーのゼロだ。

 クロウがゼロ達に事情を説明し、セイラが辿々しいながらもゼロ達に拝礼をしている。


(なるほど。アンデッドを率いるネクロマンサーの連隊か)


 ゼロと話しをしているクロウを見てグレイは合点がいった。


「クロウさん好みの人材というわけだ」


 呟いたグレイの横でエミリアが冷めた目でグレイを見上げる。


「隊長も同じですよ」

「そんなことは分かっているよ」


 その間にもゼロとクロウが地図を広げて打ち合わせをしている。

 どうやら魔王軍の分厚い防御線を分散させるためにゼロが陽動作戦を展開するようだ。  

 聞いているだけで相当に無茶な作戦であることが分かるが、ゼロに迷いはないようだ。

 自分が為すべきことをしっかりと見極めているのだろう。

 打ち合わせが終わったクロウが立ち上がる。


「そうと決まれば私達は直ぐに出立します。彼女達を一刻も早く送り届けて部隊の士気を高揚させなければなりません」


 出発の時になって初めてゼロがセイラとアイリアに声を掛けてきた。


「初めて一緒に冒険に出てから何年も経ちました。聖職者と死霊術師、互いに対極に居ましたが色々と縁がありましたね。ネクロマンサーの私が貴女達に出来ることは何もありません。ただ、頑張ってください」


 ゼロの言葉を受けてセイラの瞳に涙が浮かぶ。


「出来ることならば、聖女なんかではなく、ゼロさん達と一緒に行きたかったです。でも、私の力はゼロさんの役には立ちません。なによりも、私は聖女としての責務から逃れるつもりはありません。これは他人にはどう思われようと自分の役割に誇りを持つゼロさんから学んだことです。その誇りを胸に私も全力を尽くします。・・・ゼロさんに聖なる祈りを捧げることはできません。ですので、私達セイラとアイリアが皆さんの無事を願っています」

  

 如何に鈍いグレイでもセイラがゼロに何か特別な感情を抱いていたことが分かる。


 セイラに声を掛けた後にゼロがグレイに歩み寄った。


「2人のこと、よろしくお願いします」


 グレイの目をしっかりと見て話すゼロ。


「了解しました」


 軍隊式の敬礼で答えるグレイにゼロは頭を下げた。

 グレイとゼロ、別々の道を歩く2人の男は再び相見えた。

 人生の交差点で出会った2人は、たった一言だけの言葉を交わし、再びそれぞれの道を歩き始める。


 グレイ達はゼロ達に見送られて連合軍に合流すべく出発した。


「セイラ、貴女、ゼロさんに憧れていたでしょう?」


 ゼロと別れて涙を流すセイラを見たアイリアが声を掛ける。


「・・・はい。でも、私とゼロさんは互いに近づいても決して交わることのない道を歩む者です。それに、もう手遅れ。私の入り込む隙はなさそうです」


 寂しそうに笑うセイラの肩にアイリアはそっと手を添えた。

 その2人の会話を聞かされたグレイ達は揃って聞いていないふりをした。

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