表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/46

エミリアの疑心

 世界に戦火の烽火が上がった。

 王国の東にある山脈を隔てて隣接する連邦国家の更に東にある帝国が突如として隣接する国に次々と攻め入り、連邦国も侵攻してきた帝国と戦争状態に突入した。

 連邦国と友好関係にある王国は連邦国からの援軍要請に6千からの軍勢を派遣したが、聖務院の各部隊は今のところその援軍には含まれてはいなかった。

 

 そんな情勢下で142小隊は人身売買組織の摘発に明け暮れる日々を送っていた。

 何れの任務も出所が分からない情報を基に中隊長からの命令で動いているのだが、この2ヶ月程でグレイ達が壊滅させた組織は3つ、幾人もの被害者を救出してはいる。

 しかしながら壊滅したのは全て末端組織であり、組織の全容解明はおろか、上部組織に食い込むことすらできていなかった。

 そんな日々を送る中で142小隊副官であるエミリアは前々から感じていた小隊長グレイに対する違和感を更に大きく感じていた。

 確かに幾つかの組織の壊滅には成功しているが、幾度かの作戦失敗もある。

 特殊任務であるが故に百回の作戦を百回成功させることは難しいことは当然だ。

 そんな中でもグレイは綿密に作戦を立ててそれを実行しているのだが、稀にエミリアから見ても詰めが甘いのではないかと思うことがあり、そのグレイらしからぬ詰めの甘さにエミリアは違和感を感じていたのだ。

 

 今日は組織の隊商の商品の輸送路で待ち伏せをしていた。

 商品というのは当然ながら捕らえられた人々だ。

 小隊は鬱蒼とした森の木や草むらの中に分散して息を潜めて待ち続けている。

 木の上にはシルファと若い弓士が待機し、エミリアはグレイの傍らで草むらに潜んでいた。


 やがて、森の中の道を2頭立ての馬車が近づいてくる。

 馬車を操る御者席の男の他に周囲を守るように武装した者が6名、目標の隊商だ。


 木の上に潜むシルファが御者席の男に狙いをつける。

 エミリアは6人の護衛の頭目と思しき男に向けて弓を引き絞った。

 グレイが無言で手を振り下ろしたのを合図にエミリアが矢を放ち、エミリアの射撃に合わせてシルファと若い弓士も矢を放った。

 放たれた矢はそれぞれの標的を正確に射抜いた。

 エミリアの矢は頭目の男の左足に、若い弓士の矢は他の護衛の腹に、そしてシルファの放った矢は御者席の男の右肩に突き刺さる。

 同時に周囲を包囲していたグレイ達が飛び出して隊商の制圧にかかる。


 グレイは御者席でうずくまった男を引きずり降ろして同じく飛び出してきた隊員に引き渡して拘束させ、馬車の足を止める。

 アレックスとウォルフに指揮された隊員は馬車を護衛していた者達との戦闘に入ったが、シルファ達の援護があるうえ、経験を積み重ねた隊員達ならば問題にはならない。


 作戦は滞りなく進み、完全制圧も目前だと思われたその時、馬車の中から飛び出してきたローブを着た男?が御者の男を拘束している隊員を蹴り飛ばし、男を奪還して御者席に引き上げた。

 

 更にローブの男は双剣を抜いてグレイに斬り掛かり、グレイと激突する。


「隊長っ!」


 咄嗟にエミリアが援護をしようとするが、激しく斬り結びながら位置を入れ替え続ける2人に矢を放つことが出来ない。

 

 次の瞬間、ローブの男の剣がグレイの左腕を捉え、鮮血が飛び散ると共にその手から槍を刈り取った。

 グレイは即座に腰の剣を抜きざまに男の肩口を切り裂くが、逆に男の当て身を受けてバランスを崩した。

 その隙に男は御者席の男に合図をして馬車が走り出す。

 シルファが御者に向かって追撃の矢を放つが、その矢はローブの男に払われて馬車を取り逃がしてしまった。

 エミリアは馬車を追って駆け出したローブの男を狙う。

 弓を引き絞り、走り去る男の背中に狙いをつけたその時、エミリアと男の射線上に男を追ったグレイが割り込み、エミリアは射撃の機会を失してしまった。

 

 結局、護衛の男達6人を拘束したものの、被害者を乗せた馬車と御者、ローブの男を取り逃がしてしまった。

 立ち尽くしながら走り去る馬車を見送るグレイ。


「隊長・・・・何故?」


 結果的にエミリアの射撃を妨害したグレイ。

 それは単なる偶然に過ぎないのかもしれない。

 しかし、この件をきっかけに、これまでエミリアが感じていたグレイに対する違和感が疑心に変わったのである。


「隊長、私達は隊長を信じてついて行って良いのですか・・・・?」


 馬車を取り逃がし、拘束した護衛の男達の移送の準備を進めているグレイの背中を見つめながら、エミリアは呟いた。

 その呟きは誰の耳にも届くことはなく、答える者も居なかった。

たらたらと書き連ねた外伝も佳境へと入ってきました。

読んでくださっている方々には今しばらくお付き合いいただきたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ