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グレイとゼロ、交差する2人

 冒険者に護衛されたクロウシスの葬列は既に森の都市近くの屋敷からシーグル総本山に向けて出発している。

 そこでイザベラとグレイ達は王都から近いシーグル総本山側から進んで葬列を迎えることにした。

 イザベラは3人の若い聖騎士を従えている。

 それぞれが聖騎士の装束で騎乗しており、2人は槍旗をたなびかせている。

 グレイ達142小隊は通常装備で徒歩で後に続く。

 聖騎士に続く神官戦士の徒歩部隊、小規模ではあるものの、それはまるで観兵を受ける行進のようであった。


「私達だけ騎馬で申し訳ないですの」


 先を急ぎつつも徒歩のグレイ達のペースに合わせながらイザベラが声をかける。


「それは構いません。我々は騎馬を有していませんので、仕方ないですし、貴族の葬列護衛ということで体裁を整える必要もあることも理解しています。しかし、先を急ぐのであれば、必ず追いつきますので、先行してもらってもいいですよ?」


 グレイの返答にイザベラは笑みを浮かべつつも声を潜めた。


「そうしたいのですが、聖騎士団も色々とありますのよ。今回連れてきた3人は若くて優秀ですけど、実戦経験がまるでありませんの。貴族の葬列護衛とはいえ、失礼なことですけど、上層部は衰退した貴族に割ける人員はないということですのよ。当然ながら私はそんなことは微塵にも考えていませんけど」


 つまり、イザベラ自身も若い経験不足の騎士だけを連れていくことは心もとないようだ。


「私の小隊をそれなりに評価してくれているのですね?」

「それなりなんてとんでもない。私は貴方達を大いに評価していますのよ。今回の任は貴方の小隊なしではちょっとだけ不安ですの」


 グレイは肩を竦めた。

 少なくともイザベラは経験不足の聖騎士よりも実戦経験の豊富なグレイ達を高く買ってくれているようだ。


 グレイ達は2日を掛けて件の葬列の進む道の先に到着し、逆進して葬列の出迎えることにした。


「場合によっては接触して直ぐに戦闘に入るやもしれん。即座に対応できるように心構えておけ」


 グレイが隊員に指示を出すと、それを聞いた聖騎士達も旗槍から旗を外して戦闘準備を整える。

 具体的な指示を出していないが、その様子を見ているイザベラは少しだけ呆れ顔だ。


「遭遇戦に突入した場合は我々は貴女の指揮下に入ります」


 グレイの問い掛けにイザベラは首を振る。


「その必要はありません。戦闘が始まったら貴方の判断で動いていただいて結構ですの。・・・まあ、その必要があるかどうか、分かりませんが」


 イザベラが周囲を見渡す。

 グレイも異変に気付いた。


「隊長!死霊・・スペクターがいます」


 エミリアの報告のとおり、周囲で複数のスペクターが此方の様子を窺っている。

 アンデッドであるスペクターがいるということは、それを指揮する者がいるのだろう。

 

「なるほど、この先に彼がいるということですか?」


 グレイがイザベラを見ると、イザベラは不機嫌そうに頷いた。


「そう、忌々しいことですが、あの男が葬列を守っているようですの」


 イザベラの言葉を聞いたグレイはスペクターに対して敵対行動を取らないように指示を出す。

 こちらから手を出さなければ向こうも何もしてこない筈だ。


「この先にいます。慎重に先を急ぎましょう」


 馬を進めるイザベラに続いてグレイ達は警戒を強めて散開しつつ先に進んだ。


 グレイ達が現場に到着した時、件の悪魔は撃退されたようで、戦いは既に終わっていた。

 そこにはスケルトン等のアンデッドによる防御線が張られており、その中で腕にナイフが刺さってうずくまる老人と少年を庇うように短剣を構えるメイドの姿があった。

 更に、老人を見下ろす鎖鎌を構えた漆黒の戦士、闘技大会に出場し、イザベラに敗れたネクロマンサーのゼロだ。

 付近にはゼロのサポートについていた魔導師や森の都市の冒険者オックスやリリスの姿もある。

 グレイ達が周囲を包囲しつつ姿を現すとゼロはその様子を見ながら肩を竦めた。


「聖騎士団に聖監察兵団ですか」


 グレイ達を見渡しているゼロ。

 その顔の左半分は仮面に覆われていた。


「武器を収めなさい!抵抗するなら容赦しません!」


 イザベラが警告する。


「やれやれ、面倒な人が来ましたね」


 ゼロはアンデッドを下がらせながら鎖鎌を収め、他の者もそれに従って武器を収めた。


「間に合わなかったようですわね」


 周囲を見渡すイザベラにうずくまっていた老人が駆け寄って平伏した。


「助けてください!私はルーク様をお守りしようとしていただけなのです!それをあの死霊術師が何を企んでいるのか、突然襲われたのです!」


 馬上から見下ろすイザベラに対して老人が何やら弁明を述べている。

 そのことについてイザベラは老人やゼロを問いただしているが、イザベラもこの老人の弁明を信じてはいないようだ。

 老人に対する追求はイザベラが行っているのでグレイ達は周囲の警戒に当たる。


 そんなグレイにオックスが声を掛けてきた。


「あんたも来てくれたのか、グレイ」

「妙なところでお会いしましたね」


 聞けば、イザベラに縋りついているクロウシス家の執事であるマクレインが跡取りであるルークを抹殺しようとしたらしい。

 その間にゼロの説明に激昂した老人が声を荒げたが、その首筋にイザベラがサーベルを向けている。


「お願いです!あのような汚らわしい死霊術師の虚言、妄言に耳を傾けないでください」


 マクレインを見下ろしていたイザベラはサーベルを収めながらゼロを見た。


「私もあの死霊術師は大嫌いですの。信仰に背くばかりで軽蔑するばかりですわ」


 イザベラは真に軽蔑した眼差しをゼロに向ける。


「でしたら、私の潔白を信じてください」

「・・・それとこれとは別ですの。私はあの男は大嫌い。でも、あの死霊術師は仕事に関しては信用できますのよ。信頼まではできませんが・・・」

「それでは、私はっ」

「貴方の身柄は聖務監督官に引き渡します。貴方が教義に背いていないか、じっくりと調べてくれますわ」


 聖務監督官の名を聞いてマクレインは腰を抜かした。

 グレイも知るクロウがそうであるように、聖務監督官とは聖務院に所属する情報員であり、宗教犯罪や教義に反する者の取締りも担っているが、その行動理念は苛烈なまでの公平を保ち、私情を捨て、無感情に任務に当たり、疑惑を疑惑のままでは決して終わりにせず、その手段を選ばないことで恐れられているのだ。


「聖騎士様、お待ちください!」

「お黙りなさい!私に貴方の弁明を聞かなければならない理由はありません。弁明は監督官にしなさい!引っ立てなさい!」


 腰を抜かしたマクレインはイザベラに指示された若い聖騎士達に引きずられていった。


 連行されていったマクレインを見送ったイザベラはルークの前に膝を付いた。

 自分で言ったとおり、彼女は衰退したクロウシス家に対しても敬意を失っていないようだ。

 その後、立ち上がったイザベラはオックス達に目を向けた。


「ここからは私達が護衛の任を引き継ぎます。森の都市の冒険者のお2人は同行して事の一部始終を報告してください」


 そしてゼロを見た。


「貴方はどうしますの?同行したいならば特別に許可します。私にもその程度の権限はありますの」


 イザベラの言葉に首を振るゼロ。

 ゼロと相棒の魔導師は総本山まで同行するつもりはないらしい。

 それを引き止めようとするオックスとルークだが、ゼロの気持ちは変わらないようだ。

 同行を固辞するゼロにイザベラは安堵した様子でニッコリと微笑んだ。


「そうですの。良かったですわ。それでは、後は私達にお任せください。ご苦労様でした」


 イザベラやルーク達に別れを告げて歩き出すゼロと魔導師。

 歩き出した先で警戒に当たっていたグレイの前でふと足を止めるゼロ。

 ゼロの顔の左半分を覆う仮面、もしかすると左目を失っているのかもしれない。

 向き合う2人。

 やがて、踵を鳴らして無言で敬礼するグレイに静かに頭を下げたゼロ。

 神官戦士とネクロマンサー、2人の男は一言の言葉を交わすことなくすれ違い、互いに振り返ることなく歩き始めた。


 その後、没落貴族の葬列はイザベラやグレイ達に守られて無事にシーグル総本山へと到着したのである。

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