聖騎士対神官戦士の激闘
流れる様に、そして舞う様に繰り出されるイザベラの剣撃を捌きながら反撃を試みるグレイ。
しかし、その速さと実力の差は歴然であり、イザベラが斬撃を5回繰り出す間にグレイは1度の攻撃が出来るかどうか、その1撃も体捌きだけで難なく躱される。
イザベラは斬撃だけではない、サーベルの刃を躱したかと思えば間合いを詰めて蹴り、肘打ちと多彩な攻撃を出してくる。
グレイも手数は少ないが槍による刺突、斬撃、打撃、間合いが詰まれば左手の盾を構えての当て身と負けてはいない。
「貴方、やっぱり素敵ですのよ」
グレイの反撃を躱しながらもイザベラは楽しそうに闘技場を駆け巡る。
対するグレイは表情を変えることなく、あくまで冷静に、イザベラの攻撃を読み、隙あらば反撃を狙う。
(やっぱり桁違いだな。攻撃についていくのが精一杯だ!)
表情にこそ出していないが、その実はギリギリの戦いを強いられていた。
(この心境もイザベラさんには気付かれているだろうな)
グレイの目を見ながら笑みを浮かべているイザベラ。
宣言どおりに本気であるようだが、まだまだ余裕もありそうだ。
一瞬だけ間合いを取ったイザベラ、一足でサーベルの間合いに入れる極めて危険な距離だ。
グレイは槍を返して石突をイザベラに向ける。
切っ先を向けないのはどんな攻撃を仕掛けてもそれを捌かれては勝機を失ってしまうからだ。
兎にも角にもイザベラの一撃を捌ければ、返しの手の選択肢がグレイにはあるのだ。
イザベラがニヤリと笑ったその直後、グレイの予想を上回る速度でイザベラが飛び込んできた。
サーベルの狙いはグレイの首筋。
グレイはイザベラのサーベルを避けずに石突をイザベラの腹部に突き込んだ。
「グッ!」
半瞬だけ早くグレイの石突がイザベラを捉えた。
グレイは石突をイザベラの腹部に突き込んだまま、そこを支点に槍を回転させてバランスを崩したイザベラのサーベルを跳ね上げ、イザベラの身体がグレイの前に曝される。
勝機を見た!と思う間もなくイザベラの爪先がグレイの顎を捉えた。
目の前が暗くなり仰け反るグレイが完全にバランスを崩す。
戦いを見守っていたエミリアは咄嗟に弓を取ろうとするが、グッと思い止まる。
ここで手出ししてもグレイは喜ばない。
手を出したところで非難されたりはしないだろうし、それこそ評価してくれるだろう。
しかし、グレイの本心はそれを望んでいないと思えるのだ。
(隊長、負けないでください)
エミリアは静かに信仰するイフエールに祈った。
瞬間的に意識を飛ばしたグレイ。
イザベラの間合いで致命的な状況であり、一瞬でも早く後方に飛び退いて間合いを取るべきだが、グレイは逆に足を踏ん張って前に出た。
サーベルの柄による頭部への打撃を篭手で受けたグレイは左手でイザベラの襟を掴むと体を翻してイザベラを背負い投げた。
「クッ!」
体重差があるグレイの力任せの投げにはさすがのイザベラも堪えきれずに宙を舞った。
背中から叩きつけられるイザベラ、この大会でイザベラが倒れるのは初めてのことだ。
追い討ちをかけるように制圧を試みるグレイだが、その腕をスルリと抜け出し、側頭部への肘打ちを置き土産にされ取り逃がしてしまう。
再びサーベルを構えたイザベラ。
「本当に最高ですの。愛おしく思えてしまいますわ」
獰猛な美しさの微笑みを浮かべるイザベラはサーベルの切っ先をグレイに向けて腰を落とした。
(勝負に出てくる)
イザベラは次の一手で決着をつけるつもりだ。
グレイも槍の切っ先をイザベラの喉元に狙いをつけた。
歓声に包まれていた場内が静まり返る。
2人が同時に動いた。
グレイの首を狙ったイザベラのサーベルを槍頭で弾くが、即座にイザベラの爪先がグレイの横腹を襲う。
咄嗟に左の篭手に取り付けた小盾で受け止めるが、その勢いに取り付け部分が砕けて盾が吹き飛ばされた。
受けるだけでは埒が明かない。
一瞬の間隙を突いてグレイは槍をイザベラの胸目掛けて突き出すが、身を翻して躱され、その身体の回転のままでイザベラのサーベルが振り下ろされる。
後方に飛び退こうとしたグレイだが逃れきれず、サーベルの切っ先が槍の柄に打ち込まれ、手元から叩き落とされた。
このまま退いてはいけない!
グレイは前に踏み出して剣を抜きざまに横薙ぎに振り抜くが、その刀身を蹴り上げられて軌道を逸らされる。
更にイザベラがグレイの懐に飛び込んで下から突き上げるような体当たりを食らわせてきた。
衝撃を受け止めきれなかったグレイはイザベラ諸共倒れ込む。
決着の時が訪れた。
倒れたグレイが身を起こす前にイザベラの脚がグレイの胸を踏みつけてサーベルの切っ先がグレイの喉元に当てられる。
「・・・参りました」
グレイは自らの敗北を宣言した。
「勝負あり!聖騎士と神官戦士、聖務院対決は聖騎士イザベラ・リングルンドが勝利!やっぱり強いリングルンド選手!明日の決勝でネクロマンサーのゼロと雌雄を決する戦いに挑む!」
獣人の娘の宣言に静まり返っていた会場が大歓声に包まれた。