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イザベラのバスケットと1回戦開始

 大会2日目、今日の最終戦はグレイの出番だ。

 いつもどおりに目を覚ましたグレイは軽い訓練をして身体をほぐした後に遅めの朝食を取って早めに闘技場に向かう。

 昼頃に控え室に入ったグレイとエミリア、他に面白半分でついてきたアレックス。

 大会の進行具合によれば、グレイの試合は昼過ぎには始まりそうだ。

 聞けば、第1試合に出場したイザベラが銀等級の冒険者を一太刀で片付けたらしく、進行自体が早まっているらしい。


「相変わらずイザベラさんはこっちのペースを崩してくれるな」


 完全に油断しているグレイが思わず口にする。

 

「その言い方は失礼ではありませんの?相手が不甲斐なさすぎですのよ」

 

 グレイが何かを思ったり言ったりすれば、それが全てイザベラに筒抜けなのをグレイも学習するべきである。

 今日のイザベラはいつものドレス姿では無く、青色の聖騎士の制服を着て、どういうわけか片手にバスケットを下げている。


「グレイ、貴方達に差し入れですの。お昼ご飯にと思って作ってきたのですけど、今から試合ですものね。試合の後にでもお食べなさい」


 そう言って渡されたバスケットの中を見れば、大量のサンドイッチと焼き菓子が入れられている。


「これを、イザベラさんが?作ったのですか?」


 また失礼な発言をするグレイだが、これについてはイザベラの捉え方が違った。


「あら、私もこの程度のことはできますのよ?貴族の娘とはいえ、家を出た身。身の周りのことは一通りできますの。それに、この程度のことはレディの嗜みです。私も試合がありましたのでこの程度の簡単なものしかできませんが、皆さんで召し上がってください」


 雑作もないことのように話すイザベラだが、バスケットの中身を見るとなかなかの出来だ。

 サンドイッチは様々な食材が使われて彩りよく作られており、焼き菓子についても素人が見ても分かる程に見事なもので、非常に食欲をそそる。

 加えて


「グレイは確かトマトが苦手だと聞きましたのでトマトは抜いてありますの」


ちょっとした気遣いについても素晴らしい。

 エミリアも


(私がこれを作るには半日はかかるわ)


と完全に脱帽であった。


 グレイはサンドイッチを1つだけ摘まみ、口に運んだ。


「これは美味い。ありがとうございます。残りは試合後にいただきます」


 グレイの素直な感想にイザベラは満足気に頷いた。


「美味しいのは当然ですの。それに加えて勝利は最高のスパイスですわ。しっかりと勝って召し上がりなさい」


 グレイとエミリアを見て2人の肩を軽く叩いたイザベラは踵を返して控え室を出て行った。


 いよいよグレイの出番がやってきた。


「隊長、エミリア、頑張ってください!小隊の皆も暇があったら応援に来ると言ってましたよ!」


 からかうようなアレックスの声に送られてグレイとエミリアは聖監察兵団の軽鎧と青色のコートを身に纏い、グレイは槍と副装備のミドルソード、エミリアは長弓を手に控え室を出た。


 闘技場へと続く扉の前に立つ2人。

 扉の向こう側では選手紹介の口上が流れている。


「あの口上って誰が考えているんだ?」

「基本的にはエントリーの際に記載する情報を演出して紹介するようです」


 グレイの疑問にエミリアが答える。


「私はエントリーしたつもりはないがな」

「それはあのイザベラさんが好きなように書いていると思いますよ。因みにサポート選手は準決勝までは紹介されないようです」


 悪戯っぽく話すエミリアにグレイは肩を竦めた。

 そうこうしている間にグレイの口上が始まった。


「続いて東の門から入場は、聖務院聖監察兵団からの出場だ!例年際立った成績を残せない聖監察兵団だが、今年は一味違う!聖監察兵団の戦力向上のために最精鋭の国境警備隊から転属した特異な経歴だけでなく聖務院に所属しながら自らは神を信じないと公言する異質の兵士!聖監察兵団小隊長のグレイ!」


 自分の口上を聞いたグレイは目を丸くしてエミリアを見る。


「別に隠すつもりはないが、私が神を信じないことを公表していいのか?俺、私が言うのもなんだが、聖監察兵団の評判を落とすぞ」

「それも含めてイザベラさんの企みと演出なんでしょう」


 2人の前の扉が開かれる。

 グレイとエミリアは会場を埋め尽くした観衆の歓声に包まれた闘技場へと足を踏み出した。

 観客席では142小隊の面々やイザベラ、他にも面識のあるオックスとリリスが見守っているが群衆の中にいる彼等の姿をグレイからは見える筈もない。

 何より、大会出場に気乗りしていなかったグレイだが、戦うとなれば本気で全力で挑む。

 傍らにいるエミリアは大歓声の中でグレイが気を張りつめて、静まり返った水面のように冷静に、冷徹になっていくのを感じ取っていた。


 グレイは静かに闘技場に上がる。

 対面に立つのは剣士の若者と魔導師の少女、若いながらも銅等級にまで駆け上がったということは素質も実力も十分な者なのだろう。

 ロングソードを手に自信に満ちた目でグレイを見ている。

 グレイも小隊長としてはまだ若いが、さすがに少年のような若者という程ではない。

 グレイも静かに槍を構えた。


「さあ、1回戦最終戦!どちらも大会初出場でその実力は未知数!その勝敗は力で示せ!試合開始です!」


 開始の合図と共にグレイは駆け出して一気に間合いを詰めた。

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