闘技大会開幕2
いよいよ闘技大会が開幕した。
本日は初日の1回戦が行われる。
グレイは1回戦2日目なので今日は試合は無いので大会の見物だ。
エミリアと一緒に観客席で観戦する。
会場の興奮も高まり、いよいよ第1試合の選手が入場する。
第1試合には国境警備隊の頃の顔見知りのミラー中隊長が出場するのだが、その対戦相手のプロフィールが異質だ。
会場にはミラーの入場に続いて選手紹介の口上が流れる。
「・・・謎多き冒険者!その等級は銅でも銀でもない、黒等級の上位冒険者!彼が操るは禍々しき死霊術!己の道に誇りを持ち、手段を選ばずに依頼をこなし、ひたすらに歩んできた上位冒険者!その秘めたる実力を示せるか?風の都市の冒険者ギルド所属、ネクロマンサーのゼロ!」
開場にどよめきが走り、黒ずくめの冒険者が入場してくる。
背後に控えるのは紫色のローブの魔導師だ。
闘技場に立ち、反りの入った剣を構えるその男は一見すると黒衣の魔法戦士のようだ。
「なるほど、イザベラさんが目当ての相手が彼か・・・」
以前にクロウから捕縛を頼まれかけたネクロマンサー、王都に連行されて来たのを見かけた黒ずくめの男。
聖務院内で何やら異端審問が行われたことも聞き及び、それに伴ってイザベラが行動していたことも知っている。
すべてのピースが合致した。
その元凶が闘技場に立つあの男なのだろう。
闘技場では異様な戦いが繰り広げられていた。
ネクロマンサーが召喚したスケルトンとスペクターがミラー中隊長に襲いかかっている。
背後ではそれぞれのサポートによる援護が行われているが、ミラーのサポートの魔術師とネクロマンサーのサポートの魔導師とでは実力に差がありすぎて全く勝負になっていない。
グレイの横ではエミリアが嫌悪感を隠そうともせずに闘技場のネクロマンサーを睨みつけているが、グレイは違う。
アンデッドを使役しながら油断なく剣を構えてミラーの隙を狙っているネクロマンサー。
(死霊術だけでないということか)
ブーイングに曝されながらも表情を変えることなく剣を構えて、ジリジリと間合いを詰めているネクロマンサーに片手間でミラーのサポートを無力化しながら会場を見渡して笑みを浮かべている魔導師。
そして激しく斬り結ぶ2人、嵐のように繰り出されるミラーの大剣を前にネクロマンサーも全く負けていない。
「あれはただ者ではない。イザベラさんが固執するわけだ」
2人を見ながら思わず呟いたグレイ。
「隊長?」
首を傾げるエミリアに肩を竦めて答える。
「ミラー中隊長も恐ろしい程の手練れだが、あのネクロマンサーの方が一枚上手だよ」
グレイが闘技場を指差した先には一度間合いを取った後にミラーに向けて駆け出したネクロマンサー。
ミラーと自分の前にいるスペクターを突き抜けてミラーに剣を突き出した。
一瞬の静寂の後に開場内に響き渡る声。
「勝負あり!風の都市のネクロマンサー、ゼロの勝利っ!」
風の都市の冒険者、ネクロマンサーのゼロが初戦を突破した瞬間だった。
「これは厄介な奴に目を付けましたね。イザベラさん?」
グレイは振り返ること無く背後にいる人物に話し掛けた。
エミリアが振り返ると、いつの間にかグレイ達の背後にイザベラがいつもの出で立ちで腰に手を当てて仁王立ちしている。
「ホント、忌々しい男ですの。聖務院、私か貴方の手で叩きのめしてあげなければ気が済みませんわ」
言葉どおり忌々しげに退場していくゼロを睨むイザベラだが、どういうわけか、その視線をグレイに向ける。
「で、貴方はどういうことですの?」
「は?」
「トーナメント表をよく見てみたら、何故貴方は私と同じ組にいますの?この大会、聖務院から出場しているのは私と貴方だけですのよ!この組み合わせでは私か貴方、どちらか1人しかあの男と戦えないじゃありませんの!」
「そんな無茶な!私が決めたわけじゃあ・・・」
「男が口答えするんじゃありませんのよ!」
グレイを理不尽に一喝したイザベラはブチブチと文句を言いながら立ち去っていった。
「隊長・・あのイザベラって人、本当に面倒くさくて厄介な人ですね」
「ああ・・・」
グレイは肯定しつつも後に続く「そのとおりだ」の言葉だけは飲み込んだ。
グレイとエミリアはその後も暇つぶしに大会を観戦し、1日目の最終戦のオックスとリリスの試合までを見届けた。
オックスは王都の衛士中隊長を相手に危なげなく勝利していた。
大会1日目を見届けて闘技場を出た2人はアレックスやウォルフ達、小隊の暇な連中と合流して食事を取ることにした。
明日の最終戦はいよいよグレイの出番だ、アレックス達が前祝いと称して酒を飲んでいるのを眺めながらグレイとエミリアは食事だけを楽しんだ。




