対悪魔殲滅戦
再び教会内に飛び込んだグレイが目にしたのは退魔陣に捕らわれながらも10体程の眷族を従えた悪魔の姿だった。
下級といえども悪魔、眷族を従えるのも当然であり、この事態もグレイの想定の範囲内だ。
悪魔が従えるのはボロボロの神官服を着たゴブリン達。
「趣味が悪いな」
吐き捨てながらも状況を観察すれば、ゴブリン達はそれぞれナイフや斧、古びた剣を手にしてこちらを威嚇している。
神官服を着ているが、呪文使いやらを有しているわけではなさそうだ。
「エミリアは外に出て第3分隊シルファの指揮下に入れ!女性隊員も外に出ろ!」
「はいっ!」
グレイが突き破った窓から外に飛び出すエミリア。
第2分隊の女性隊員1名も扉から外に飛び出していく。
彼女が抜けたことで退魔陣の力が弱まるが元々たいして効果がなかったのでそれは問題ではない。
目先の獲物を逃すまいとエミリア達を追おうとするゴブリンが4体。
2体は突入した第1分隊が仕留めるが、残りの2体は囲いを抜けて教会の外に飛び出して行く。
ウォルフ達は敢えて後を追ったりはしない。
外には第3分隊が待機しているのだ。
・・ギャッ!
直ぐに教会の外からゴブリンの悲鳴が聞こえてきた。
敵の方が勝手に自滅してくれたが、それでもまだ半数が残っているし、何よりも悪魔を相手にするのは厄介だ。
教会内では退魔陣を張っている第2分隊の他に第1分隊が散開しているが、教会内は障害物が多く、ハルバートを存分に扱うことが出来ない。
悪魔は退魔陣の中に閉じ込めてはいるが、先程グレイが教会の外にまで叩き出されたように、身動きが取れないわけでもない。
それならば小隊の全戦力を投入できる状況にしたい。
グレイはウォルフに目配せをし、2人で同時に退魔陣に飛び込んで悪魔に対して打撃を加える。
アレックス達はその打撃とタイミングを合わせて退魔陣を解いた。
グレイとウォルフの打撃は悪魔に対して大したダメージを与えることは出来ないが、グレイの意趣返しとばかりに吹き飛ばして窓から外に叩き出すことに成功した。
眷族のゴブリン達が恐慌状態に陥るが、そちらは無視してグレイ達も教会の外に飛び出した。
教会の外では第3分隊が悪魔と距離を取って包囲していた。
グレイ達も外に出て体勢を立て直し、小隊で悪魔を包囲するが、再び退魔陣を張る程の余裕は無い。
「弓を装備する者はゴブリンの対応に専念!第3分隊の他の者はゴブリン対応の援護、私と第1、第2分隊で悪魔に当たるぞ!」
グレイの指示で全員が即座に行動に移った。
第3分隊の弓兵2人にエミリアを加えた3人は弓を構えて教会から出てくるゴブリンを各個に仕留め、その3人を第3分隊の他の隊員3人が援護する。
第1、第2分隊で悪魔を包囲しつつ牽制し、グレイとウォルフ、アレックスの3人が悪魔に対峙した。
目の前に立つ悪魔は目の前の人間達を甘く見ているのか、余裕すら感じられる雰囲気でグレイ達を見据えている。
3人が同時に動いた。
ウォルフとアレックスが左右に分かれ、正面からグレイが槍を突き出す。
グレイの槍を捌きながら鋭い爪をグレイに振り下ろすが、その一瞬の隙を狙ってウォルフとアレックスがハルバートを振り抜いた。
身を翻してウォルフ達の攻撃を躱した悪魔にグレイが追い打ちをかける。
グレイの槍の切っ先が悪魔の首筋を掠めるが、逆に悪魔の爪がグレイの右肩をえぐった。
咄嗟に悪魔を蹴り飛ばして距離を取る。
「小隊長っ!」
エミリアが咄嗟に駆け寄ろうとするのを制して再び槍を構える。
傷は深いが直ぐに動けなくなるほどではない。
再びグレイと2人の分隊長が三方向から悪魔に対峙したその時、悪魔の周囲に幾つもの火球が出現した。
「いかんっ!待避しろっ!」
グレイの声に周囲で包囲していた隊員が散開した瞬間、多数の火球が悪魔を中心に炸裂した。
既に回避行動に入っていた者達はどうにか被害を免れることができたが、唯一エミリアだけがゴブリンを狙って弓を放った直後で回避が間に合わなかった。
反射的にグレイが動く。
エミリアの前に立ちはだかり、向かってくる火球を槍で弾き返した。
「距離を取って援護しろ!」
「了解!」
グレイの声に即座に反応したエミリアは後方に飛び退きながら矢を番える。
弦を引きながら矢にイフエールの加護を込めて狙いをつける。
エミリアはグレイが悪魔目掛けて槍を投げるタイミングを見計らって矢を放った。
グレイの投げた槍を叩き落とした悪魔の反応が遅れ、エミリアの矢が悪魔の左目を貫いた。
ギャアッッ!
左目から白い煙を上げて仰け反る悪魔の隙を見逃さなかったグレイは腰の剣を抜いて吶喊する。
ウォルフとアレックスもシルファもその隙を見逃しはしない。
シルファは2本同時に矢を番えて矢を放ち、ウォルフとアレックスがハルバートを繰り出す。
シルファの放った矢が悪魔の喉元に突き刺さり、ウォルフのハルバートが右肩に叩き込まれ、アレックスのハルバートの矛先が腹部に突き立てられる。
グレイの剣が胸元に深く突き刺さり、更に拾い上げた槍が悪魔の喉元を貫通した。
流石の悪魔もひとたまりもなく、その場に崩れ落ちた。
グレイは倒れた悪魔の身体を踏みつけて再度槍を突き立ててとどめを刺す。
その間に眷族であるゴブリンも第3分隊によって掃討されていた。
グレイの足下で悪魔の身体が崩れていき、その場に半ば腐乱した老人の死体が残った。
それは悪魔に囚われていたゴルドン神官のなれの果ての姿だった。




