142小隊結成
翌日、王都の外れにある聖監察兵団第1大隊本部内に新しく割り振られた142小隊詰所に3人の分隊長が集合した。
小隊長であるグレイの前に立つ3人は小隊長が信仰を持たず、神を信じていないことを承知のうえで志願した者達である。
隊長の命令によって行動する一兵卒ならともかく、分隊長として兵を指揮し、時として小隊長に代わって判断を下す必要がある分隊長が小隊長に対して疑念を抱いてはいけないためであると共に142小隊が危険を伴う特殊任務を担う小隊であることを考慮して志願者を募ったためだ。
「グレイ隊長、お久しぶりです!また隊長の下で働けることを嬉しく思います」
1人目はアレックス・クレアス、かつてはグレイの分隊員として共に任務に当たった者であり、グレイのことを理解している1人だ。
2人目は巨漢の戦士、トルシア教の信徒であるウォルフ・ランケット。
「小隊長殿、粉骨砕身務めさせていただきます!」
実直で戦闘能力は格段に高いと評判だ。
3人目は唯一の女性分隊長。
「あ、あのっ、すみません、一生懸命頑張ります」
シルファ・ルーズイット、信仰はシーグル教。
気弱な性格ながら卓越した弓の技量を持ち、初歩的ながら治療の祈りも操ることができる。
この3人の分隊長の下に11人の隊員が配置されることになる。
本来は分隊長以下5人の3個分隊で小隊編成となるのだが、142小隊は特例的に副官が配置されるので員数調整で隊員が1名減とされていた。
「小隊長のグレイだ。私のことについては聞いていると思うが、よろしく頼む。分隊編成は副官が着任してから行うので、とりあえず隊舎で身辺整理をしながら待機していてくれ」
3人は敬礼して部屋を出て行った。
分隊長が退出し、グレイは小隊詰所を見渡した。
詰所とは名ばかりでこぢんまりした室内には事務机が2つ、小隊長と副官用、他に打ち合わせ用の小さなテーブルが1つ、これは小隊長と副官、3人の分隊長が座るのが限界だ。
小隊16人全員が室内に入れば身動きもままならないだろう。
しかしそんなことは問題ではない。
グレイの仕事場はこの詰所ではないのだ。
新たな任務を受けて分隊長に示達し、任務を終えて帰れば次の任務までの間に報告書類を作成するだけの部屋と考えれば個室が与えられただけでも贅沢である。
グレイがそんなことを考えていたところ、詰所のドアがノックされた。
ドアが開き、新たに配属された小隊副官が室内に入ってきてグレイの前に立ち、敬礼をする。
「142小隊の副官に任命されましたエミリア・リニックです。よろしくお願いします!」
目の前に立つのはかつてゴブリンの標的にされた辺境の教会でシスターをしていた銀髪に眼鏡を掛けたハーフエルフのエミリア・リニックだった。
予想外の事態にグレイが反応できずにいるとエミリアの方が口を開く。
「私は神官である一方でエルフの弓の技術も会得しています。あのゴブリンの一件で私も教えを説いて人々を救う活動だけでなく、人々を守る側に立ちたいと思ったんです。なので聖監察兵団に入り、弓士兼治療士として任務に就いて経験を積みました。そして今回、この小隊の副官に志願したんです」
エミリアは眼鏡越しに真っ直ぐな目でグレイを見た。
「貴女はたしか、神を信じていない私のことを信じられない、間違えていると話していた筈だが、それでも私の副官に就こうというのか?」
「その考えは今でも変わりません。でも、私はグレイさ、小隊長に考えを改めてもらいたい気持ちもありません。ただ、私と違う価値観を持ち、神を信じないという信念を貫く人を補佐し、その行く末を見届けたいと思ったのです」
グレイの問いにエミリアは決意に満ちた表情で答える。
知識神たるイフエールを信仰する者らしい考えであるが、決意に満ちた表情の中にどことなく不安そうな様子が見て取れる。
小隊副官として認めてもらえるかどうか、不安なのだろうか。
グレイはエミリアを正面から見据えた。
「エミリア・リニックの小隊副官への着任を確認した。今後ともよろしく頼む」
グレイの言葉にエミリアの表情がパッと明るくなった。
「はい!よろしくお願いします」
エミリアは満面の笑みで敬礼した。
その後、待機していた分隊長を交えて会議を開き、142小隊の編成が確定した。
グレイ小隊長に小隊副官の弓士兼治療士のエミリア・リニック。
因みに、グレイは士官である小隊長に昇格したため、自分の武装を選択できるようになった。
そこでグレイが選択したのは、主装備は国境警備隊の頃から扱いに自信があった槍を装備、副武装としてミドルソードを持つことにした。
小隊編成は、第1分隊長ウォルフ・ランケット以下5名。
全員がハルバート装備の攻撃力重視の突撃分隊。
第2分隊長アレックス・クレアス以下4名。
こちらもハルバート装備の隊員で編成されており、員数調整で1名欠の分隊だが、この第2分隊が基幹分隊となる。
第3分隊長シルファ・ルーズイット以下5名。
分隊長シルファの他にもう1名の弓士を配置し、支援分隊の役割を担う。
今ここに聖監察兵団第1大隊第4中隊第2小隊が結成された。
グレイ小隊の新たな任務の日々が始まろうとしている。




