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新たなる役割

 邪教団の殲滅作戦終了から数ヶ月、グレイの分隊はいくつかの任務を遂行してきた。

 邪教団の件の後にフリッツも他の分隊に転属し、新隊員が配属されたのを最後に隊員の入れ替えは行われていない。

 グレイが分隊長になってから今までこのようなことはなかったため、グレイも嫌な予感を感じていたが、その予感が的中したかのように聖務院への出頭を命じられた。


 毎度のことながら一介の下士官が聖務院に出頭させられることは稀である。

 それなのにグレイに至っては事ある毎に聖務院に呼ばれている。

 聖務院に出頭したグレイを待ち受けていたのは例によってイザベラだった。

 相変わらず優雅なドレス姿にサーベルを帯びて聖務院正面入口前で腰に手を当てて仁王立ちしている。

 

「待ちくたびれましたのよ!」


 グレイも生粋の軍人である。

 時間の管理には人一倍厳しく、今日も時間に余裕を持って聖務院に来た筈なのにこの言われようである。


「私は時間に間に合うように来たつもりですが?」

「軍人としてはそれで宜しいですの。でも、男としてレディを待たせるのはマナー違反ですのよ!」

「しかし、私は聖務院への出頭を命じられましたが、イザベラさんが待っていることは知りませんでした」

「その程度のことは察しなさい!」

(そんな無茶な・・・)

「何か考えまして?」

「いえ・・・」


 イザベラを相手にするとどうにも調子が狂う。

 そんなグレイの気持ちなど意に介せず、イザベラは庁舎内へと歩き出した。


「ついていらっしゃい。貴方には新しい任務がありますのよ」


 イザベラに案内されて聖務院内を歩く。

 本来は聖監察兵団の任務に聖騎士が口出しや介入してくることは殆ど無い。

 共同任務ともなれば聖監察兵団は聖騎士の指揮下に入ることもあるが、聖務院隷下の軍組織とはいえ、聖騎士団と聖監察兵団は別組織なのである。

 見たところ、イザベラはそのようなことは全く気にしていないようだ。


 庁舎内の聖監察兵団の本部役人の部屋に招き入れられたグレイ。

 目の前にいる役人の横に当然のようにイザベラが立つ。


「本日付をもってグレイ分隊長の任務を解く。併せて分隊員は各部隊への転属が下命される」


 役人の言葉にグレイは表情を変えない。

 どんな命令であろうとも命令は命令だが、隊員の入れ替えが無くなった最近の事情からも編成替えか何かがあることを予測していたのだ。

 そんなグレイの様子を見たイザベラは満足気に頷いている。


「同日付でグレイを士官に昇進させ、新編成される小隊の小隊長に任命する」


 グレイに下された命令は昇進と小隊長への任命だった。

 大まかな辞令を読み上げた役人に変わってイザベラが口を開く。


「貴方に指揮して貰うのは聖監察兵団第1大隊第4中隊第2小隊。聖監察兵団第1大隊は聖監察兵団の中核部隊ですの。その中で第4中隊は独立性の高い部隊でその小隊には特殊任務を下命されて行動していますの。中隊とはいえ今のところ第1小隊しか編成されていませんでしたが、新たに第2小隊を新編成しますので、その小隊をグレイに任せますのよ」


 グレイは黙って説明を聞いている。


「第4中隊は我々聖騎士団との共同任務の機会も多いですのよ」


 どことなく嬉しそうに笑みを浮かべながら話すイザベラ。

 その表情が何を意味するのかは知る由もないが、どちらにせよグレイに拒否する選択肢はない。

 グレイは目の前の2人に向かって踵を鳴らして敬礼した。


「小隊長の任、受命します!」


 役人とイザベラは頷いた。


「小隊に配属される分隊長3名と隊員は明日中には詰所に集合する。併せて第4中隊はその任務の都合上小隊長にも副官が配属される。副官も明日中には着任させる。何か質問はあるかね?」


 役人の言葉にグレイは口を開いた。


「小隊の編成は分かりました。直属の中隊長への申告はどのように?第1大隊の詰所に第4中隊など配置されていなかったのですが?」


 イザベラが吹き出した。


「中隊長は貴方の目の前におりますのよ」


 グレイは面食らった。

 目の前にいるのはイザベラと文官である役人しかいない。


「私が中隊長を兼任している聖務院のケルビン・スクルツだ。見てのとおり私は文官で軍人ではない。言わば名ばかりの中隊長だよ。私は前線に出ることはない。任務に当たっては君の裁量で動いてもらう。因みに君の小隊は第1大隊傘下の部隊だが、大隊長の指揮下にはない。君の小隊は聖務院から私を通した命令にのみ従ってもらう。煩わしい上官が居なくて気が楽だろう?」


 文官の中隊長は肩を竦めながら笑った。


 第1大隊第4中隊第2小隊、通称142小隊長の辞令を受けたグレイは聖務院を後にした。 

 王都の目抜き通りを詰所に向かって歩いていると前方から聖監察兵団の部隊に守られた護送用の馬車が近づいてくる。

 護送用とはいえ、馬車の荷台が格子に囲まれただけのもので、道行く人々が足を止めてその様子を見ていた。

 まるで馬車に乗せられた者を見せしめ、晒し者にしているかのようにゆっくりと進んでくる。

 グレイは道の端に寄って馬車とすれ違った。

 馬車に乗せられていたのは黒ずくめの男で後ろ手に拘束されて床に転がされたまま身動きも満足に取れない様子たが、その表情は落ち着き払っている。

 まるで王都見物をしているかのように物珍しげに周りを見回していた。

 グレイは足を止めることなく馬車とすれ違う。

 その矢先


「・・今の馬車に・・・ていたの・・じゃないか?」

「ええ、間違いないわ。風の都市の・・・」


喧騒の中で馬車を見送っている2人の冒険者の姿に気づいた。

 剣士の若者とレンジャーのエルフの女性、2人共に上位冒険者のようだ。

 2人は馬車を追って歩き出す。

 グレイは足を止めて振り返り、3秒間だけ2人の冒険者を見送った。

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