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邪教団の儀式を急襲せよ2

 祭壇の上から部隊の指揮を執るグレイ。

 混乱の最中、教徒達は次々と捕縛されていくが、中には武器を持って抵抗して返り討ちになる者や隙を見て逃げ出す者も少なくない。

 逃げ出したところで外は衛士隊長率いる部隊が封鎖していて逃げられる筈もない。

 

 ふと見ると、混乱の中で1人不思議な動きをしている教徒がいる。

 不自然な動きではなく、混乱の中を逃げ惑うように右往左往しながら他の教徒に衝突したりしている。 

 その動きはある意味で不自然なほどに自然で、完全に混乱の一部と化しているが、袖口にナイフを隠し持ち、他の教徒に意図的に衝突した際に教徒の脚辺りを刺してその動きを止めているのだ。


「クロウさん・・こんなとこにまで?」

 

 それは教徒に紛れ込んだクロウであり、他の教徒を次々と無力化していながら衛士達に捕縛されないように巧みに動き回っている。

 クロウの方もグレイにばれたことに気付いたようで、周囲を見渡し、教徒達が鎮圧されつつあることを確認すると祭壇の上に上がってきた。

 黒いローブに身を包んだ教徒が祭壇に上がってきたことを警戒するオックスだが、グレイが黙って首を振ったことに事情を察して被害者を連れて安全な場所に退避していった。


「お見事でした。お手伝いに来ましたよ」


 ローブを目深に被ったクロウはグレイが制圧した司祭を見てグレイに耳打ちする。


「この司祭は私に引き渡してください。色々と情報を得たいのでね」


 やはりクロウは情報関係の部署に所属しているのだろう、おそらくは聖務監督官。

 しかし、グレイは余計な詮索はせずに黙って頷いた。


「ありがとうございます。他の教徒は適当に捕縛しておいてください。夜明け頃に聖監察兵団の別部隊が到着しますので、彼等に引き渡してください。後の調査は彼等が引き継ぎます」

  

 言い残したクロウは捕縛した司祭を引きずって去って行った。


 現場での教徒の制圧は概ね完了したのを見届けたグレイは様子を見に外に出た。

 外に逃れた教徒もいたようだが、その者等も衛士隊長の指示の下、ことごとく捕縛されていた。

 中には抵抗して打ち取られた者もいるようだが問題になる程ではない。

 加えて突入隊に損害は無い、作戦は成功したと判断して良いだろう。

 ふと見ると、捕らえた教徒を調べている衛士達の様子をリリスが眺めていた。


「たった今、この扉から出てきた者はいませんでしたか?」


 グレイに問われたリリスは首を傾げた。


「いないわ?最後に出てきた者は捕縛したけど、随分前ね。その後は貴方しか出て来ていないわよ」

(やはり、他に出入口があったのか)


 グレイは肩を竦めた。


「ところで、集まっていた教徒は制圧したけど、取りこぼしがいたとしたら厄介なのではないかしら?」


 リリスの疑問にグレイは首を振った。

 

「大丈夫です。彼がお見事でした、って評価してくれましたから、この邪教団は壊滅したと判断します」

「彼?」

「いえ、こちらのことです」


 その後、グレイは衛士隊長やオックス達に頼んで捕縛した教徒達を建物の地下に押し込んで拘禁した。

 朝には聖監察兵団の部隊が到着して、引き継げば任務は終わりだ。

 フリッツ達は打ち取られた教徒達の死体を調べた後に一カ所に纏めて祈りを捧げている。

 

「お前さんは祈らないのか?」


 フリッツ達の祈りを離れた場所で眺めているグレイにオックスが声を掛けてきた。 

 傍らにはリリスもいる。


「私は必要ありません。聖監察兵団に所属していますが、私は信仰を持っていませんから」

「なんだそりゃ?」


 不思議そうな顔のオックス達にグレイは自分の経歴を説明した。

 グレイの説明を聞いた2人は笑い出した。

 

「こりゃあ面白い奴だ!気に入ったぜ!」

「ホント。堅苦しい役人とは大違いね」

「本当だぜ。そういえば、生け贄にされそうになった娘2人は正気を取り戻した。2人共にこの都市から少し離れた街や村から攫われてきたらしい。健康には問題ない」

「そうですか。夜明けには聖監察兵団の別の部隊が到着します。彼等からの聞き取りが終われば直ぐにでも帰れるでしょう」


 オックスは満足そうに頷いた。


 クロウの言ったとおり、夜明けと共に聖監察兵団の中隊が森の都市に到着した。

 グレイ達は捕縛した教徒を中隊に引き渡して任務解除となり、直ちに王都へ戻ることにした。

 出発のとき、都市の出口までオックスとリリスが見送りに来た。


「協力に感謝します」


 礼を述べるグレイにオックスとリリスは笑いながら首を振った。


「世話になったのはこっちの方だ。都市の中に変な奴らが信仰の自由を盾に好き勝手しているのが気に入らなかったんだ」

「これでサッパリしたわ。だからお礼を言うのは私達よ」


 2人はグレイやフリッツ達と固い握手をした。


「またこの都市に来たら声を掛けてくれ。飯でも酒でもたらふくご馳走するぜ」


 2人は都市を出て帰還の途についたグレイ達をいつまでも見送っていた。

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